イベントの報告

言葉ではなく行動によるフォローアップ

インド太平洋における日独協力

公開シンポジウム「インド太平洋地域におけるセキュリティー・ダイナミクス」 ―日独1.5トラック安全保障対話の一環として

イベントレポート作者: Arndt Meissner

グローバルな相互依存の時代において、インド太平洋地域と欧州は、物理的には離れているがますます緊密になっている。その結果、ドイツ政府による2020年の「インド太平洋ガイドライン」の策定だけでなく、欧州連合(EU)も世界で最もダイナミックなインド太平洋地域に関するガイドラインを策定中である。この10年間、インド太平洋地域の安全保障環境は急速な展開を遂げ、中でもサイバー犯罪は増加し、領土紛争は南シナ海にとどまらず、核実験が繰り広げられてきた。地理的には離れているが、民主主義国家として志を共にする日独両国は、現在も続く新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの中にあるからこそ、外交・安全保障政策に関する積極的な対話の発展を目指している。これに関連して、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥングは、ベルリン日独センター、日本国外務省、独連邦外務省、日本国際問題研究所と共に7回目となる1.5トラック年次安全保障対話の一環として、2021年6月23日、公開シンポジウム「インド太平洋地域におけるセキュリティー・ダイナミクス」を開催した。

 

クラウス・フィーツェ駐日ドイツ連邦共和国大使館首席公使は、インド太平洋地域における地政学的対立の新たな段階と激しさについて強調した。同氏は、開会挨拶に続いて、ドイツの視点は、パートナーである日本は現に最前線に立たされており、北朝鮮と中華人民共和国がいずれも目と鼻の先にあるという現実に留意していないことが多いと述べた。同氏は、ドイツ政府は同国初の「インド太平洋ガイドライン」について、同地域において高い支持を得ていること、北朝鮮による制裁逃れのみならず、中国による強力な軍事化により、今や同地域における安全保障問題はついては、一層緊密な協力が必要である旨強調した。フィーツェ首席公使は、今年8月にドイツ海軍のフリゲート艦「バイエルン」をインド太平洋地域に派遣することの象徴的意味について、重要かつ必要なものであると語った。日独両国にとって、近年、利害の均衡を図ることはますます困難になっており、中国による一層積極的な力の行使や経済政策の利用、同地域における人権問題や戦略地政学的問題により、価値観を共有するパートナー同士の協調が必要となっていると同時に、軍事・サプライチェーン両面においても弱点を克服する重要性を説いた。日独両国は、2022年、2023年と続けてG7の議長国となることを機に、テーマの協調を望んでいる。このようにフィーツェ首席公使が述べたとおり、安全保障はパートナーと共にあってこそ達成可能である。

 

柳秀直駐ドイツ連邦共和国特命全権大使は、開会挨拶において、この1年、とりわけ安全保障・防衛分野における日独関係が前向きな発展を遂げたことは喜ばしいことだと語り、ドイツによる2020年の「インド太平洋ガイドライン」を高く評価していると述べた。両国はこの1年、多国間フォーラムにおいて信頼の精神で協力しただけでなく、ルールに基づく国際秩序という共通の目標の下、両国は具体的な安全保障協力を強化した。柳大使は両国がG7の議長国を務めることについて大いに自信を示し、何よりも、軍縮、海洋安全保障や自由貿易分野において協力を拡大することが可能であり、インド太平洋地域における現在の情勢不安を緩和することができるとの考えを述べた。同氏は、フリゲート艦の派遣について、日本として大いに歓迎しており、ドイツが公約を果たしていることを示すものだと語った。同氏は開会挨拶の結びに、G7首脳会議に合わせて開催された直近の菅総理大臣とメルケル首相による会談について喜ばしいことであると述べた。

 

インド太平洋地域以遠における日独協力の機会と課題

 

ヘニンク=ゲーオルク・ジーモン独連邦外務省アジア太平洋局日本・韓国・北朝鮮・モンゴル・オーストラリア・ニュージーランド・太平洋諸島担当課長は、開会挨拶において、将来の世界秩序を設計する上で、現在の決定と協力は重要であると強調した。アジア太平洋地域には、世界の巨大都市33都市のうち20都市と世界最大級の経済大国がある。しかし、ジーモン氏は、ドイツの視点では、同地域に対する戦略的で調整されたアプローチがこれまでなかったと指摘し、「インド太平洋ガイドライン」によって独連邦政府は同地域のパートナーとの関係多様化・強化に貢献し、ルールに基づく世界秩序を積極的に支持するための概念的枠組みを策定することが出来た。9月に公表予定のEUによる新たなガイドラインもまた、多国間主義、気候変動、人権と法の支配、平和・安全・安定、自由貿易と連結性という6つの核となるテーマについて積極的な優先事項を打ち出すことになる。ドイツが冷戦期にまさにそうであったように、日本は現在戦略地政学的な最前線に立っている。ジーモン氏は、だからこそ、独連邦外務省は強力な二国間・多国間協力のために努力し、直近の外務・防衛閣僚会合(2+2)や日独情報保護協定を通じて将来のより緊密な協力に向けた重要な土台を築いてきたと語った。

 

野口泰防衛省防衛政策局次長は、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)ビジョンの重要性を強調し、日本から見たセキュリティー・ダイナミクスについて詳しく言及した。その後、北朝鮮とその核開発計画が現在日本の安全保障にとって大きな脅威になっていると指摘した。パンデミックや昨年の台風にもかかわらず、軍事パレードや今年3月に新たにミサイル発射実験が実施されたことは、北朝鮮が核・ミサイル開発計画の拡大を継続していることを示唆している。南シナ海では中国が力による現状変更を試みており、東シナ海では、尖閣諸島周辺における状況は深刻化する一方である。日本は台湾をめぐる対立についても大きな関心を有しており、平和的な解決を支持している。2016年の中国とフィリピンとの間における海上の国境をめぐる紛争は、中国が国際条約に基づいた裁判所の判決を無視し続けてきた。したがって、世界における価値観に基づく日本のパートナーは、ルールに基づく国際秩序を維持する取り組みを支持しなければならないと述べた

 

その上で、日本の安全保障政策の重点は(1)日本独自の防衛体制、(2)米国との同盟関係、そして(3)法の支配、海上交通路の自由、経済的福祉、安全と安定を維持するための世界的な防衛協力という3本の柱で成り立っていると説明し、日米豪印戦略対話(クアッド)の役割と今年開催されたクアッド首脳会議の成功について特に強調した。同会議で議論されたのは狭義の安全保障問題にとどまらず、価値観を共有する4か国はまた、COVID-19のワクチン接種キャンペーン、気候変動や技術の進歩等のテーマも取り上げた。東南アジア諸国連合(ASEAN)各国は、同地域において、特に防災、人材の能力開発、武器協力、安全保障体制分野において重要な役割を果たしているという観点から、日本は価値観を共有するパートナーであるドイツが同地域におけるコミットメントを拡大し、積極的関与を歓迎し、日独合同演習や北朝鮮による違法な瀬取り行為取り締まりへのドイツの参加について期待感を表明しした。野口氏は、同地域で活発に活動している英仏と共に、ドイツとEUは緊密かつ良き協力のパートナーであると述べた。

 

サラ・キルヒベルガー キール大学安全保障政策研究所アジア太平洋地域戦略的開発部門代表は、海洋分野についてこれまでの発言者が指摘した問題は、その大半が中国側によって引き起こされた船舶事案や潜水艦の接近という形で現れていると指摘した。EU加盟国の海洋分野における力量や能力は様々であるが、展開していくことは防衛戦略の重要な要素であり、例えば、フランスは、海外領土を保有していることから現地に常駐し、年に2回南シナ海を通過することから、同地域について豊富な知識を有している。ドイツは、フリゲート艦「バイエルン」の派遣を通じて、この20年で初めて同地域におけるプレゼンス構築に目下取り組んでいる。先程その象徴的な性質については言及があったが、水深が浅く航行が難しい水域における潜水艦の指揮統制などの特定分野において豊富な知見を有するドイツを過小評価するべきではないとした。海洋分野に次いで、最近締結された情報保護協定は、機微な分野における協力を強化し、遅滞のない情報共有を促進するものとその意義を提起した。インド太平洋地域におけるドイツの関与に関する一つの課題は、小規模な海洋能力で近海における任務にも従事しなければならないということである。キルヒベルガー氏は、両国は同様の見解を共有していることから、協力の大きな可能性と高い機運を活用するべきであると締めくくった。

 

岩間陽子政策研究大学院大学教授は、多国間協力に焦点を置き、日本の視点から多国間機関が同地域の経済的次元のみならず安全保障の次元についても一層取り上げるようになってきていることを歓迎した。この傾向が示していることは、北大西洋条約機構(NATO)やクアッドのような多国間機関や枠組み、より具体的には共通の価値観を共有するパートナーと民主主義国家の共通理解によって第二次冷戦を防げる可能性があり、防ぐべきである、ということである。岩間氏は、外交的対立と外交的対話は、価値観を共有するパートナーが内部で協調を進め、団結して行動するための手段であると強調した。グローバルな相互依存のため、日独は同様の状況にある。自国だけではなく地域を安定化させるために、日本は志を共にするパートナーと、共同戦略やシナリオを策定しなければならない。世界の民主主義国家間のフォーラムは、軍事的介入のない紛争解決に資する可能性がある。ドイツは依然として冷戦時代の経験や知識を豊富に有しており、日本はそこから学び、ドイツと意見交換することを期待していると述べた。

 

その後のパネルディスカッションにおいて、ジーモン氏は、多国間協力には、実質と、既存のフォーラムや制度において中核となるテーマに明確な重点を置くことが特に必要であると付言した。経済政策と安全保障政策との結びつきについて、野口氏は、特に対中国については、経済政策と安全保障政策が密接に関連していると指摘した。日本は、戦略的自立を維持するために、戦略的に重要な要素を国内で生産するか、安定したサプライチェーンを確保することを目指している。尖閣諸島をめぐる対立については、野口氏は、国家主権に関する限り、一歩たりとも譲歩するべきではないと付言した。キルヒベルガー氏は、中国の自信の高まりとロシアとの信頼関係に基づく協力の初期の傾向(例:潜水艦の開発)について言及した。また、米国がインド太平洋地域に明確な重点を置いており、現在の組織的・能力的な強さでは、NATOは従来の関与地域と新たな関与地域の双方に積極的に関与する準備が整っていないと付言した。岩間氏は、このことは、日本が現時点で強い能力を構築し組織する必要があるということだと応じた。

 

日独両国は2021年に選挙が実施される予定である。ジーモン氏は、選挙後もドイツのインド太平洋政策は堅持され、同国の連邦議会選挙について不安定要因のリスクはないと述べた。地域の不安定なセキュリティー・ダイナミクスや、競争相手、パートナーそして体制上のライバルとしての中国について考慮すると、インド太平洋地域における状況は常に評価され、今後も関心を集め続けるとした。他方、岩間氏とジーモン氏は、今度の日独双方の選挙において、安全保障政策に関する問題は付随的な役割しか果たさないだろうと述べた。岩間氏によると、目下、COVID-19のパンデミックやオリンピックが、日本の選挙前の有力な争点になっていると述べた。

 

パネルディスカッションの結びに、野口氏はドイツのフリゲート艦派遣による前向きなシグナルについて強調し、北朝鮮に対する国連制裁決議の履行監視に対する支持に謝意を表明した。キルヒベルガー氏は、日本が差し迫った事態の進展や脅威を認識している一方で、ドイツのインド太平洋に対する見解は、相対的に警戒感が低いことが多いと指摘した。同氏はディスカッションの結びに、中国が過去数年間で変化したにもかかわらず、まだドイツの政界では新しい政策が浸透していないとし、我々はいまや見て見ぬふりをせずに、言葉ではなく行動によりフォローアップしなければならないのであると述べた。

 

 

 

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担当者

瀧口 直輝

Naoki Takiguchi

シニアプログラムマネージャー、日本プログラム

naoki.takiguchi@kas.de +81 3 6426 5061

このシリーズについて

コンラート・アデナウアー財団と財団所有の教育機関、教育センターと国外事務所は、さまざまなテーマについて毎年何千ものイベントを開催しています。その中から選ばれた会議、イベント、シンポジウムについては、直近の特別レポートをwww.kas.deで紹介しています。内容の要約のほか、写真、講演原稿、録画や録音などの付属資料があります。