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国際法の危機?

期待値マネジメント改善への提言

国際法は、ロシアのウクライナ侵攻も、中東紛争も終わらせることができなかった。それどころか国際法は何もできないのではないかという懸念がますます大きくなっている。今まさに、国際法は「危機的状況」にある。しかし、それでは一体国際法は本当にそれほど効力のないものなのであろうか?いや、むしろ、今必要とされているのは、期待値マネジメントの見直しと、より大きな政治的意思ではないだろうか。

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二つの世界大戦が、人類史上最も衝撃的な武力紛争であったことは間違いない。これらの戦争の後、少なくともヨーロッパでは70年以上もの間、人々は安全が保障されていると思い込んできた。ところがロシアがウクライナに侵攻したことにより、戦争は再び私たちのすぐそばに戻ってきた。さらに、2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃以降、我々のすぐ隣の地域でもう一つの戦争が激化している。しかもその戦争には、歴史的に私たちと特別に深い関係を持つ国が関与している。そして、現在もなお、テロ組織ハマスはガザで100人の人質[i]を拘束し続けている。この2年間、ドイツのメディアはほぼこの二つの戦争のみを報じてきたかのように見えるが、世界各地ではそれよりもはるかに多い戦争や武力紛争が続いている[ii]。国際法だけで、この計り知れない苦しみを終わらせることはできない。それでも、多くの人々は国際法にそれを期待しているのだ。

 

国際法とロシアの侵略戦争

2022年2月24日、ロシアはウクライナへの全面的な攻撃を開始し、国際法で定められている武力行使禁止の原則にまたしても違反した。国連憲章第2条4項は、「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を、いかなる国の領土保全または政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない[iii]」と規定している。武力行使の禁止は、国際法における最大の成果であると言える。国家が他国に対して軍事力を行使することは、原則として国際法違反である。ただし、二つの例外については文書内でもはっきりと認められている。ひとつは、すべての国家には自衛の権利があるということ。もう一つは、国連安全保障理事会が、世界平和と国際秩序の安定を維持または回復するために軍事力の行使を決定する場合である。侵略戦争を開始することは、国際レベルにおける最も重大な犯罪であり、いわばすべての戦争犯罪を引き起こす「原罪」である。ロシアによる侵略開始後まもなく、国際法はこの戦争を終わらせることも、目に見える形で影響力を行使することもできないという認識が広まった。国際司法裁判所(ICJ)も国際刑事裁判所(ICC)も、脇役のような存在であるように見える。
 

ロシアの侵攻からわずか2日後の2022年2月26日、ウクライナは国際司法裁判所(ICJ)に緊急申立ておよび提訴を行った。1946年に創設され、ハーグの平和宮に本拠を置くこの「世界法廷」は、国連(UN)の最も重要な司法機関である。異なる国籍を有する15名の裁判官から成るこの裁判所は、国家間の紛争を扱っている。しかし、ロシアもウクライナも、国際司法裁判所の強制管轄権を受諾していない。このため、同裁判所は、武力行使禁止違反について判断を下すのではなく、両国が署名・批准している「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」に照らして違反行為があるかどうか係属中の訴訟を審理することになる。本条約第9条によれば、締約国間の紛争についても、国際司法裁判所が管轄権を有している。ロシアは、ウクライナ東部においてロシア系住民に対するジェノサイドが行われていると主張し、自らの侵略戦争を正当化している。これに対しウクライナは、自国がそのようなジェノサイドの責任を問われるべきではないと本案審理において認定するよう強く求めている。2023年9月、本案に関する口頭弁論が5日間にわたり実施された。そして最近になって、国際司法裁判所はロシアに対する訴えを大部分において認め、本案審理を開始することを決定した。判決が下されるまでには、なお時間を要する。もっとも、裁判所はすでに2022年3月16日、仮保全措置として、ロシアに対し軍事行動を直ちに停止するよう命じていた。ウクライナおよびその国民の権利に回復不能な損害が生じるおそれがあるとして、裁判所は暫定措置の申立てを認めたのである。しかし、ロシアが自制した形跡は全くないままである。国際的に最高位の司法機関であっても、その決定を押し通す強制的な手段はなく、破壊と殺戮は国際社会の目の前で妨げられることなく続いている。
 

国際刑事裁判所(ICC)[iv]もまた、この戦争がはじまるとすぐに戦争犯罪および人道に対する罪に関する公式捜査を開始した。1998年、ローマにおける国連外交会議で国際刑事裁判所設立に関する条約、いわゆるローマ規程が採択された。ローマ規程は139か国により署名され、2002年に発効し、ICCは2003年にハーグで活動を開始した。署名国139か国のうち、これまでに124か国が同規程を批准している。ドイツは創設以来、一貫してICCの活動を強く支持してきた。ICCは、国際司法裁判所(ICJ)とは異なり、国連の一部ではなく、独立した国際機関である。ICJでは国家のみが当事者となるのに対し、ICCにおける国際法上の成果は、個人が国際社会の独立した司法機関の前で責任を問われ得るという点にある。
 

ICCは、それぞれの国の刑事訴追に取って代わるものではなく、またそれを検証する機関でもない。ICCが介入するのは、当該国が自国民による犯罪を訴追する能力や意思がない場合に限られる。このため、ICCの管轄権は、特に重大な犯罪、すなわち、ジェノサイド、人道に対する罪、戦争犯罪、侵略犯罪に限定されている。2022年2月24日以降、わずか数日のうちに43か国が検察官に捜査の付託を行った。これはかつてない規模の動きであった。2023年3月17日、ICCは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、ロシア連邦児童権利委員会委員であるマリア・リヴォワ=ベロワ氏に対して、国際逮捕状を発行した。両者は、ウクライナの占領地域からウクライナの子供たちを不法に追放、あるいは移送した戦争犯罪の責任が問われている[v]。その後、元国防相セルゲイ・ショイグに対するものなど、さらなる逮捕状も発行された。しかし、被疑者たちが近い将来に拘束される見込みはほとんどない。
 

特別法廷[vi]は、特定の事案を解決するため期間限定で設置される刑事裁判所である。かなり早い段階から、ウクライナのためにこの特別法廷を設置するべきだという声は高まっていた。2022年当時は、ロシアもウクライナもローマ規程の締約国ではなかったため、特別法廷の設置が必要であったからであろう。もっとも、ウクライナはすでにICCの管轄権を受け入れており、これが前述の逮捕状の根拠となっている。さらに、2000年の署名から24年を経て、2024年8月にウクライナはローマ規程を批准した[vii]。しかし、それでも侵略犯罪を問うためには管轄権を受け入れるまでの空白の時間があるのは事実だ。政治的な妥協ではあるが、国連安全保障理事会が承認しない限り、非締約国の国民(訳注:ここでは非締約国=ロシアである)に対してこの罪で訴追することができないことになっている。ロシアが安保理常任理事国として拒否権を有している以上、この選択肢(訳注:安保理での承認)は不可能であり、近い将来、この条約が改正されることも期待できない。実際に特別法廷が設立されるかどうかについても、依然として見通しすら立っていない。
 

司法手続きとは別に、国際社会はすでに2022年3月2日、ロシアの侵攻を非難している。侵攻からわずか数日後、141か国がロシア軍の即時撤退を求める決議に賛成票を投じた。それからほぼ1年後、2023年2月23日、国連総会は同様の要求を再度行い、再び141か国が賛成した。さらに、2022年10月12日の国連決議では、143か国が、ウクライナのルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン4州のロシアへの併合を無効と宣言し、ウクライナの領土保全と主権を侵害しているとして、ロシアに対し「即時、完全かつ無条件」にウクライナから撤退するよう改めて要求した[viii]。しかし、これらはいずれもウクライナにおける現在の戦況に顕著な影響を及ぼしていない。戦争は今なお続いている。

 

国際法と 2023107

中東情勢についても同様のことがいえる。イスラエルの存続権はますます脅かされている。イスラエルは1年以上にわたり、複数の戦線で自衛の行動を続けている。2023年10月7日のハマスによるイスラエルへのテロ攻撃、その翌日のレバノンのテロ組織ヒズボラによるロケット弾攻撃が開始され、中東紛争は激化している。今年にはいってイランはすでに2回、数百発のロケット弾でイスラエルを攻撃している。これに対しイスラエルは、ガザ地区、シリア、レバノン、さらにはイランにおいても、標的を限定した軍事行動によりテロリストを殺害してきた。2024年10月初旬、ガザに続き、レバノンのヒズボラに対するイスラエルの地上作戦も開始された。これらの過程で、ガザおよびレバノンでは多くの民間人が犠牲となっている。ガザ地区では人道的危機すら発生している。こうした状況についても、国際裁判所はそれぞれの権限の範囲内で事態の検証を進めている。イスラエルは、国際司法裁判所(ICJ)および国際刑事裁判所(ICC)を正式には承認していないが、両裁判所で提起された訴追や主張に対しては、防御の立場から対応を行っている。南アフリカは、パレスチナ人に対するジェノサイド(集団虐殺)の告発に基づき、イスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴した。また国際刑事裁判所(ICC)の首席検察官は、捜査の一環として、ハマスのテロリスト3名に対する逮捕状請求のみならず、当時のイスラエル国防相および首相に対しても逮捕状を請求した。2024年11月21日、ICCは逮捕状の請求根拠を認めこれを発行した。これに対して、イスラエルは意見を表明し、不服を申し立てている。このような対応から、イスラエルはこれらの疑惑を真摯に受け止め、両国際裁判所を尊重していると評価できる。裁判所は、特に本案審理において、事実関係および証拠を十分かつ慎重に検討するため、相応の時間をかけることになるだろう。市民への事前警告、人道支援、そしてイスラエルがハマスによる攻撃に絶えずさらされ、防衛を余儀なくされているという事実を考慮すると、一部のイスラエル閣僚(その多くは軍の指導者ではない)によるいくつかの非常に疑わしい発言があるにしても、イスラエルがジェノサイドを行っているという非難は法的に疑念が残ると言わざるを得ない。
 

安全保障理事会での多くの議論や、すべての当事者による集中的な停戦交渉を踏まえると、この紛争もまた国際法では解決できないことが改めて明らかになった。では、国際法はそれほどに無力なのだろうか。そして、それゆえにその価値を失ってしまうのだろうか。

 

平和をもたらすのは法律ではなく、国家である


国際政治において、決議や裁判所の判決が実行されないことは、確かに苛立たしく、消耗を伴うものである。しかし、重要なのは、国際法が何をなし得るのか、そして何をなし得ないのかを理解することである。国連によると、国際法は「国家間の相互関係における行動、ならびに国家の領域内における個人の取扱いについて、国家が負う法的義務を定めるもの[ix]」である。これは、人権や世界貿易といった、国際的関心を有する多くの分野を包含している。今日では、多岐にわたる分野に影響を及ぼす、相互に緊密に結びついた国際的な規範体系が存在している。ドイツでは、これを「ルールに基づく国際秩序(regelbasierten internationalen Ordnung)」と呼んでいる。
 

国際法と国内公法との間には、根本的な違いがある。民法とは異なり、国内公法とは、個人と国家の関係を規律するものである。一方、国際法は国家間の関係を規律する。この点は極めて重要である。というのも、国際法に対する失望は往々にして、国内公法と同様の機能を国際法にも期待してしまうという誤解から生じているためである。しかし、国際法には、国家を超えた超国家的な存在、国家の上に立つ権力などはない。国家は、階層的に上下関係に置かれているのではなく、対等な立場で並立している。国家はそれぞれ主権を有しており、国際法上の義務については自発的に負うのである。国家が国際法上の義務を負うのは、他国にも規則を遵守してほしいという利益を有しているからであり、そのため自らも同様に義務を負うことに同意するのである。義務を破れば、相互の信頼が損なわれ、他の国家もそれに倣うよう促すことになる。したがって、国際法上の合意の基盤は、共通の利益と相互の信頼なのである。
 

これは、規則違反をしてもそのまま見過ごされるということではない。ロシアの侵略戦争に対しては全世界が何らかの対応を取った。米国やその他の国々、そして欧州連合は、ロシアに対して大規模かつ前例のない制裁を発動した。しかし、これらのあらゆる結果は、国際社会による能動的な行動を前提としており、自動的な執行メカニズムは存在しない。国際法に違反する行為を行った当事者に対しては、再び規範を順守するよう積極的に圧力をかけていかねばならない。ただしこれは、その当事者が他の国の行動に実際に影響を受ける場合にのみ機能するものである。国際法上の義務の履行は、常に主権国家自身の判断に委ねられている。この点は、国家が秩序維持主体として暴力の独占を行使し、個人の生活に直接介入する国内法秩序とは本質的に異なるのである。
 

国際法による拘束力の程度は国によって異なる。(残念ながら)ほとんどの国は自国に利益がある場合にのみ国際法に従っている。例えば、米国、ロシア、中国、インドといった大国は、これまでローマ規程を批准しておらず、したがって国際刑事裁判所(ICC)の司法権も認めていない。これにより、もともと脆弱な国際システムを一層弱体化させている。 エルンスト・オットー・ツェンピエル(Ernst-Otto Czempiel)は、国際法と政治の現実の関係について、次のように要約している。「国際法は、関係国によって受け入れられることを前提とする合意の法であり、今後もその性質は変わらない。国際法がもたらし得る平和への貢献は、制度の構成員がそれをどこまで許容するかに依存している。したがって、国際法が平和をどの程度促進し得るかは、各国自身の判断に委ねられているのである[x]。」

 

国連安全保障理事会の役割

国際法の危機は、いわば、法そのものの危機というよりも、それを守ることを期待されている諸国家の危機である。国際法は、それに服するすべての国家が、同じ理解のもとで同様にそれを適用してはじめて機能する。法の受容は、その有効性の基本条件である。国際法が危機的状況にあるという認識も、決して新しいものではない[xi]。武力行使禁止の原則が(複数の国家の視点から見れば)不当に侵害され、その武力衝突が国際社会によって速やかに封じ込められない場合、国際法が危機的状況であるという議論は繰り返し行われる。現在のウクライナ戦争に限らず、同じような状況で常に問題視されてきたのが、国連安全保障理事会における一部の加盟国の拒否権である。
 

安全保障理事会は、国連の中核的な権力・制裁機関である。同理事会は15か国で構成され、5か国の常任理事国と、2年任期で選出される10か国の非常任理事国から成る。常任理事国には、フランス、中国、米国、英国に加え、ロシアが含まれる。国連憲章第7章に規定されている通り、武力行使禁止の原則に対する違反があった場合、措置を決定し、これを実施するのは安全保障理事会の責務である。これに加えて、紛争当事者が国際司法裁判所(ICJ)の判決に基づく義務を履行しない場合にも安全保障理事会が何らかの対応をする。国連憲章第94条は、判決に実効性を持たせるために、安全保障理事会が措置を決定できることを規定している。こうした事実を踏まえると、ウクライナ戦争に関する国際法上の多面的な取り組みがこれまで成果を上げられなかったことは驚くことではない。ロシアは安全保障理事会の常任理事国であり、国連憲章第27条第3項に基づき拒否権を有している。五つの常任理事国はいずれも、その一票によって安全保障理事会のいかなる決定も阻止することができる。したがって、ロシアの拒否権は、同国に対して拘束力のある措置を講じようとするあらゆる決議をすべて阻止できるわけである[xii]。したがって、この五つの常任理事国が毎回合意に達しなければならないということになるのだ[xiii]。そして結果として、安全保障理事会は政治的理由から、裁判所の判断や法そのものを執行することに繰り返し失敗してきた。安全保障理事会は、本質的に法的機関というよりも、むしろ政治的な機関なのである。国際法を施行するには、常に政治的意思が必要である。しかし、まさにその意思が欠けているのである。
 

このため、当然のことながら安全保障理事会の改革は繰り返し求められてきた。同理事会は第二次世界大戦後の力関係を反映しているのであるが、もはやこれは今日の地政学的現実とは合致しない。1945年以降、新たに142か国が加盟した。すべての加盟国が安全保障理事会の決定を尊重するためには、同理事会が十分に正当化され、かつ代表性を備えていなければならない。そうでなければ、必要な権威を欠くことになる。ドイツ連邦政府は、安全保障理事会の改革が実現しなければ、たとえそれが理事会ほどの拘束力や正統性を備えていなくても、意思決定の場が他のフォーラムへと移行する危険があると警告しており、この警告は全く正しいものである[xiv]。実際、ロシアの侵略行為によって、「政治的対立が武力によって解決され、帝国主義的目的が暴力によって実現される傾向が強まる危険」が生じているのである[xv]。

 

期待値の調整が必要

しかし、だからと言って、ウクライナにおけるロシアの侵略やガザでの戦争をめぐって、ドイツやその他の国の専門家が主張しているように、国際法が「終焉」を迎えていると諦めるべきではない[xvi]。国際法は決して無力でもない。国際法がこれまでに築き上げてきた成果は、当たり前に得られたものではないのだ。現在の形になるまでに、何十年もの歳月を要した。ヨーロッパでこれほど長く平和な時が続いたのは国際法があったからだ。もちろん他にも重要な要因はあろうが、それでも国際法が果たした役割は少なくない。過去70年の間に主権国家間で発生した軍事紛争は約135件起こったが、その前の70年間は180件を超えていた[xvii]。国連の存在によって、加盟国は何度も同じテーブルに着き、交渉を行うことが可能なのだ。
 

残念ながら、危機や過ち、失敗は、成果や成功よりも記憶に強く残ることが多い。しかし、そうした成果や成功が忘れ去られてはならない。改革の必要性や弱点を抱えてはいるものの、既存の制度は平和の構築に寄与している。国際秩序を継続的に強化し、改善していくためには、辛抱強く現実に即した期待値マネジメントを行っていかねばならない
 

ロシアが戦争を続けているとはいえ、裁判所の司法判断や国連総会の決議の影響は過小評価すべきではない。プーチン大統領は、世界の多くの地域で指名手配中の戦争犯罪者である。彼の移動の自由は大きく制限されている(もっとも、国際刑事裁判所(ICC)の加盟国であるモンゴルが、最近の国賓訪問の際に条約上の義務があるにもかかわらず、彼を逮捕しなかったという例外はある[xviii])。ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶこの侵略行為を、国連加盟141か国が明確に非難したことは、大きな影響を及ぼしている。大多数の国々が、この侵略戦争を断固として拒否しているのだ。そして、国際司法裁判所(ICJ)の判決は、たとえ現時点では実施も執行もされていないとしても、すべての国に対して高い権威と意義を持ち続けている[xix]。
 

これはすべて(少なからず)国際法に拠るところが大きい。さらに言えば、国際法とその裁判機関があるからこそ、ロシアによる侵略戦争がいつか調査・検証され、その責任者が可能な限り責任を追及されることは制度的に担保されている。威嚇による抑止を行いながら辛抱強くその時を待つことが重要だ。たとえプーチン大統領が最終的に逮捕されなかったとしても、少なくとも起訴される可能性は高い。このこと自体が他国に対しても影響を及ぼし、場合によっては、独自の侵略戦争に踏み切ることを思いとどまらせる効果を持ち得るのだ。
 

中東紛争においても、国際法が法的枠組みを定めている。すべての当事者は、そのことを繰り返し思い知らされている。国際法は、ドイツが自らの立場や判断の基礎として据えている基準である。ハマスとヒズボラはテロ組織として国際法を踏みにじっている一方で、イスラエルは国際法を遵守することを自らの責務としている。

 

法は単なる手段に過ぎない、だからこそこれまで以上に強化される必要がある

結局のところ、国際法は、各国がそれを守ろうとする意思によって成り立っている。法律は、平和と正義のための単なる手段であり、保証ではない。政治に携わる者同士の合意と互恵性[xx](訳注:相手国の自国に対する待遇と同様の待遇を相手国に対して付与しようとする考え方。 互恵主義、レシプロシティー)に基づいている。平和に基づく世界秩序を今後も維持したいと思うならば、他国も同様の利益を共有しているという信頼のもとで、国際法をさらに強化すると同時に、それが政治的にも実行・履行されるよう働きかけ、擁護していかなければならない。この点において、国際的な法の支配の取り組みは重要な役割を担うことができるし、また担わなければならない。
 

キャロライン・モーザーの比喩を借りるならば、「結局のところ、国際法は国際社会にとって、病気の人にとっての薬のようなものである。痛みを和らげ、病と闘う助けにはなるが、それは患者自身の自己治癒力との相互作用の中でのみ効果を発揮する[xxi]」ということなのだ。さらに、その薬が効果を発揮するためには、広く普及し、服用されなければならないという事実もある。そして、仮に毎回(あるいは即座に)効き目が現れなかったとしても、そうだからと言って、薬そのものの根本的な有効性を疑うべきではない
 



本稿は、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(
KAS)により20241216日に発行された『Auslandsinformationen(海外情報)』2024年第4版『Unterm Radar. Die verdrängten Krisen der Welt(死角となって忘れ去られた世界の危機)』の中で書かれたドイツ語の記事『Krise des Völkerrechts? Ein Plädoyer für ein besseres Erwartungsmanagement国際法の危機?期待値マネジメント改善への提言)』を日本語に翻訳したものである。


 

[i]       2024年12月8日現在。ハアレツ紙(イスラエルの新聞)2024: Israel-Gaza War: Day 429(イスラエルとガザの戦争、429日目「仮訳」):https://haaretz.com [2024年12月8日閲覧]

[ii]       世界各地で(現在)進行中の戦争や武力紛争のリストを作成すれば、残念ながら非常に長いリストになる。平和教育の観点から、各紛争の概要と分析をまとめ、有益なリストを作成した。以下のサイトを参照ください。Servicestelle Friedensbildung (BaWü) 平和教育サービスセンター(バーデン・ヴュルテンベルク州)2024年:Kriege und Konflikte weltweit(世界各地の戦争と紛争「仮訳」): https://ogy.de/51pq [2024年10月29日閲覧]; Gantzel, Klaus Jürgen 2003: Über die Kriege nach dem Zweiten Weltkrieg. Tendenzen, ursächliche Hintergründe, Perspektiven(第二次世界大戦後に起きた戦争について。その傾向、背景、そして展望を探る「仮訳」)Wegner, Bernd (編纂): Wie Kriege entstehen(戦争はどのように発生したのか「仮訳」)パーダーボルン 299-318 頁。

[iii]      1945年6月26日に署名された国連憲章、ドイツ連邦官報1973年第II部、431頁。

[iv]      Rinke, Franziska / Wulff, Arne / Elsner, Gisela ほか 2017年:Zwischen Anspruch und Wirklichkeit. 15 Jahre Internationaler Strafgerichtshof (IStGH)(要求と現実の狭間で。国際刑事裁判所(ICC)の15年「仮訳」)、Auslandsinformationen(海外情報)、第33巻2号、コンラート‧アデナウアー‧シュティフトゥング、2017年7月13日発行:https://ogy.de/2h4m [2024年10月29日閲覧]

[v]       Rinke, Franziska 2024:Gestohlene Leben. Die verschleppten Kinder der Ukraine(奪われた命。ウクライナから連れ去られた子供たち「仮訳」)Die Politische Meinung(政治的見解)コンラート‧アデナウアー‧シュティフトゥング、2024年10月14日発行:https://ogy.de/gf7t [2024年10月29日閲覧]

[vi]      Rinke, Franziska 2022:Ein Sondertribunal für das Verbrechen der Aggression(侵略犯罪のための特別法廷「仮訳」)Legal Tribune Online (LTO:リーガル・トリビューン・オンライン)、2022年11月30日発信:https://ogy.de/igin [2024年10月29日閲覧]

[vii]     LTO:リーガル・トリビューン・オンライン 2024: Ukraine wird Mitglied des Internationalen Strafgerichtshofs(ウクライナが国際刑事裁判所の加盟国となる「仮訳」)2024年8月21日発信:https://ogy.de/uk50 [2024年10月29日閲覧]

[viii]     国連 2022:2022年10月12日国連総会採択決議:A/RES/ES-11/4、2022年10月13日発信、2頁、https://ogy.de/1ve8 [2024年11月19日閲覧]。国連総会の第 11 回緊急会合では、これまでに 6 つの決議が採択されており、そのすべてがロシアの侵略に対するものである(A/RES/ES -11/1 から -11/6)。緊急会議は 2022 年 2 月 28 日に開会し、2023 年 2 月 22 日に 2 日間の延長が決定された。2022 年 3 月 2 日から 2023 年 2 月 23 日にかけて採択された 6 つの決議はすべて、戦争の終結を求める内容である。

[ix]      UN-Informationsdienst Wien(国連ウィーン事務局情報)2024:Internationales Recht(国際法):https://ogy.de/t3ka [2024年10月29日閲覧]

[x]       Czempiel, Ernst-Otto 1998: Friedensstrategien. Eine systematische Darstellung außenpolitischer Theorien von Machiavelli bis Madariaga(平和戦略――マキアヴェッリからマダリアガまでの外交理論を体系的に読み解く「仮訳」)、VS Verlag für Sozialwissenschaften(VS社会科学出版社(のちにSpringer社に統合される))オプラーデン 107 頁

[xi]      Sutter, Patrick 2004: Das humanitäre Völkerrecht in der Krise?(危機に直面する国際人道法?「仮訳」)Aus Politik und Zeitgeschichte (APuZ)(連邦政治教育センター)2004年10月15日発行:https://bpb.de/28040 [2024年10月29日閲覧]

[xii]     Von Knobelsdorff, Christoph / Bummel, Andreas 2022:Debatte: Das Vetorecht muss reformiert werden, Deutsche Gesellschaft für die Vereinten Nationen(討論:安保理の拒否権は改革されなければならない「仮訳」)ドイツ国連協会(DGVN)、2022年5月3日発信:https://ogy.de/rfqd [2024年10月29日閲覧]

[xiii]     Seit 1946 haben die ständigen Mitglieder des Sicherheitsrats ihr Veto 321-mal eingesetzt (Stand: 04.09.2024). Hiervon fallen mehr als die Hälfte der Vetos auf Russland bzw. die UdSSR, nämlich 158. Es folgen die USA mit 92 Vetos. Deutlich weniger nutzen ihr Veto Großbritannien (32-mal), China (21-mal) und Frankreich (18-mal). (1946年以降、国連安全保障理事会の常任理事国が行使した拒否権の数は計321回である(2024年9月4日現在)。このうち、半数以上にあたる158回はロシア、すなわち旧ソ連によるものである。これに続くのが米国で、92回行使している。これに対し、英国(32回)、中国(21回)、フランス(18回)の拒否権行使の回数は大幅に少ない「仮訳」)Peace Security Data Hub (ピース・セキュリティ・データ・ハブ)2024: Security Council Data – Vetoes Since 1946(安全保障理事会データ――1946年以降行使された拒否権)2024年9月4日公表:https://ogy.de/1dul [2024年10月29日閲覧]

[xiv]     Auswärtiges Amt(ドイツ連邦外務省AA)2022:Reform des Sicherheitsrats der Vereinten Nationen(国連安全保障理事会の改革「仮訳」)2022年1月14日公表:https://ogy.de/ 53a3 [2024年10月29日閲覧]

[xv]     Heinemann, Christoph 2023:Völkerrechtler Kreß: Deutschland darf Waffen in erheblichem Umfang liefern(国際法学者クレース氏:ドイツは大規模な武器供与を行うことができる「仮訳」)Interview, Deutschlandfunk(ドイチュラントフンク(ドイツの公共国際放送)のインタビュー)2023年3月5日放送:https://ogy.de/q3k6 [2024年10月29日閲覧]

[xvi]     So wie wir verneinend z. B. auch Brock, Lothar / Simon, Hendrik 2022: Ist das Völkerrecht am Ende?, Frankfurter Rundschau, 28.11.2022(私たちもまた、たとえば Brock, Lothar / Simon, Hendrik(2022年)『国際法は終焉を迎えたのか?』フランクフルター・ルントシャウ紙、2022年11月28日付と同様に、否定的な立場をとる。):https://ogy.de/qlg2 [2024年10月29日閲覧]。

[xvii]    Die angesprochene Statistik und Frage wird hier beantwortet und erklärt: Worldview Upgrader(ここで言及する統計と疑問についてはWorldview Upgraderで解答が出ている「仮訳」):https://ogy.de/bqhi [2024年10月29日閲覧]、Gapminder ist eine schwedische Organisation, die sich zum Auftrag gemacht hat, globale systematische Missverständnisse zu analysieren und durch Wissensvermittlung zu reduzieren – auch für Kriegsstatistiken(ギャップマインダーは、世界に広く存在する体系的な誤解を分析し、知識の普及を通じてそれらを減らすことを使命とするスウェーデンの組織であり、戦争統計についても同様の取り組みを行っている「仮訳」)

[xviii]   Tagesschau(ターゲスシャウ/ドイツARDのニュース番組) 2024:Ehrengarde statt Verhaftung(逮捕される代わりに親衛隊へ「仮訳」)2024年9月3日放送:https://ogy.de/8gbg [2024年10月29日閲覧]

[xix]     Lange, Felix 2022: Verliert das Völkerrecht an Bedeutung?(国際法の意義はもうないのか?「仮訳」)LTO:リーガル・トリビューン・オンライン、2022年9月3日発行:https://ogy.de/u3e1 [2024年10月29日閲覧]

[xx]     Schaller, Christian 2007: Humanitäres Völkerrecht und nichtstaatliche Gewaltakteure. Neue Regeln für asymmetrische bewaffnete Konflikte?(国際人道法と非国家の武装勢力――非対称紛争(訳注:能力・地位・戦術などにおいて当事者同士に大きな非対称の差がある紛争)に新たなルールは必要か?「仮訳」) SWPStudie 2007/S 34(ドイツ国際安全保障研究所(SWP)研究報告書 2007年/第34シリーズ)2007年12月15日発表:https://ogy.de/tx3g [2024年10月29日閲覧]

[xxi]     Moser, Carolyn 2015:Das Völkerrecht – ein Garant für Frieden, Sicherheit und Gerechtigkeit?(国際法は平和・安全・正義の保証なのか?「仮訳」)、Vortrag, Max-Planck-Institut für ausländisches öffentliches Recht und Völkerrecht(マックス・プランク比較公法・国際法研究所での講演)2015年2月13日:https://ogy.de/aw6u [2024年10月29日閲覧]

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