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ポストコロニアリズムという使える「資源」

デジタル空間における権威主義国家 の歴史政策について

権威主義国家およびそれに近い立場にある者たちは、デジタル空間においても、西側諸国のグローバルな関与を、過去の植民地支配と結び付けて、メディアや社会的批判の対象として注目させ、価値観に基づく外交的関与の信用を傷つけようとしている。

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こうした傾向は、NATOや、ウクライナあるいはイスラエルを支持する個別国家に対する組織的なキャンペーンにも表れている。NATO諸国間の緊密な連携を求め、ウクライナへの軍事支援の強化を主張し、あるいは他の場面でウクライナやイスラエルに連帯を示す政府や政治家は、「旧来の植民地主義的な行動パターン」や、「旧世界」の視点に基づいて行動しており、新興国や新興勢力の利益を無視している、といった非難が向けられるのである[i]。
 

権威主義的アクターたちは、植民地支配の過去をことさらに強調したり、その解釈を歪めたりすることで、不平等や歴史的責任をめぐるグローバルな言説と結びつき、特にいわゆる「グローバル・サウス」と呼ばれる国々において、こうした言説が受容されやすい環境を形成している。多くの社会で既に最も重要な情報源となっているソーシャルメディアを通じて、植民地支配の経験と現在の地政学的利害とを結びつけるコンテンツが意図的に拡散され、デジタル空間は、権力志向的な歴史政策が展開される舞台となっている。
 

西側の社会においても、ポストコロニアル的なナラティブ(物語)は、不平等、人種差別、記憶の文化(訳注:忘却に抗して過去の出来事を想起し、そこから現在の拠り所、未来への指針を示そうとする社会の精神的営為の総体、代表的なものはドイツのErinnerungskulturに基づく考え方である)に関する議論の中で、ますます重要性を増している。デジタル環境における情報消費の拡大という傾向は、特定のナラティブ(物語)が拡散し定着することを加速させている。特に深刻なのは、アルゴリズムによって増幅されたコンテンツや AI (人工知能)ベースの言語モデルが、偏った解釈を検証されることなく再現し、ソーシャルメディア、オピニオン記事、動画などで広範に拡散されてしまうことだ。そうなれば、特定の見方が急速に定着し、公の議論に長期的な影響を与えてしまうことになりかねない。
 

ポストコロニアル的な視点は、西側の社会においては、主に社会的言説の一部として扱われているが、社会的背景が違う他の国では、国家による情報政策の手段として意図的に用いられている。そこでは、歴史的および地政学的な解釈に影響を与えるとともに、「グローバル・サウス」における影響力を拡大し「西側」に代わる別のナラティブ(物語)を構築することを目的としている。

 

大国的思考とメタ・ナラティブ(大いなる物語)の登場

2012年に習近平氏が中国共産党総書記に就任し、翌2013年に中華人民共和国の国家主席に就任すると、中国の台頭という約束を伴ったレトリックが登場するようになった。「中国の夢」と「中華民族の偉大な復興の実現」というスローガンのもと、中国が「新時代」に入り、世界の中心舞台へと回帰しなければならないとする主張が、あらゆる言説レベルで展開されている[ii]。ここで語られる「中華民族の偉大な復興」の中には、中国の経済的台頭を強調するだけでなく、長らく外国の支配によって中断されてきた、本来は中国が担うべき「文明の指導者」としての歴史的役割を回復するという主張も込められている。このような考え方は、共産党の外交および内政のレトリックに浸透しており、国際舞台における中国の姿勢にますます影響を与えるようになっている。
 

これと類似したレトリックは、ウラジーミル・プーチンが掲げる目標、すなわち、かつてはロシア帝国に属し、現在はウクライナの一部となっている地域を再び支配することを正当化するロシアのプロパガンダにも見られる。これらの地域はロシア帝国全体とそれを支える文化にとって不可欠であるというのだ[iii]。これらの大いなる物語(メタ・ナラティブ)は、それぞれの国家のより良く、より大きな未来に向けて働きかけるものであり、その目的は、ナショナリズムの感情を醸成し、国民の一体感を呼び起こし、そして特に、自らの目標を達成するための手段の正当性を立証することにある。そこでは、政治参加は隅に追いやられ、特に公式の物語に対する批判や疑問はすべて排除されるのだ。
 

この「大いなる物語(メタ・ナラティブ)」は、民主主義社会においても、自国の政治・経済エリートが政治秩序の崩壊の一因を担っているとする物語を通じて、人々に浸透していく。具体的には、欧州連合(EU)に加盟したばかりに負わされることになった財政的負担、欧州連合(EU)に加盟したばかりに失った独自の政策決定権限、「過剰な移民」が西側諸国の多くの経済が不安定化している原因であるという主張、さらには犯罪やテロの増加が社会を揺るがしているという認識などが挙げられる。

 

ポストコロニアリズム、グレート・ファイアウォール、大祖国戦争

中国とロシアは、国家機関がデジタルプラットフォームや AI (人工知能)を戦略的に活用し、自国の歴史解釈を拡散している代表的な例である。その過程において、代替的な説明パターンや視点は、ほとんど排除されており、存在するとしても、西側でも利用可能なソーシャルメディアのバージョンに登場する程度だ(TikTokは中国企業バイトダンスの子会社である)。しかし、それらが大きな影響力を獲得することはほとんどない。
 

ここでは、歴史的解釈とデジタル技術の発展に対する統制が重要な役割を果たしている。歴史観は、国内では国民の結束を強めるため、対外的には国際協力の基盤として自国の見解を確立するために意図的に利用されている。例えば中国の事例では、先進的な中国企業による技術的成果から生まれる「新たに目覚めた国家的誇り」の強調が顕著である。特に、そうした成功が、中国が西洋列強による何世紀にもわたる支配をようやく脱した、というメッセージと結びつけられる場合、その傾向はより一層強まる。例えば、2025年1月に中国のオープンソース言語モデル「DeepSeek」が成功を収めたことは、「国家の運命を決定づける画期的な出来事」として頻繁に語られる[iv]。
 

1. 中国:デジタル記憶の統制

中国は、歴史的なナラティブ(物語)を管理・統制するためにデジタル技術と AI (人工知能)を活用する典型例である。中国のインターネットは厳しく監視されているだけでなく、デジタル情報空間そのものが国家と中国共産党の広報活動の中核となっている。国内向けでも対外向けでもメッセージが伝達できるかどうか、またできるとすればどのような方法で発信されるのかはすべてここで決定される。近年は特に、記憶の文化において、帝政中国の歴史、それに根ざした中国文明の独自の発展路線、さらには1920年代以降の中国共産党の成立と功績が、プロパガンダ活動の中心的柱となっている。歴史的なデータ、振り返って中国の成功物語のパズルのピースと解釈できる成果や要素を利用し、中国の善意や国際社会との関わり(例えば、古代のシルクロードなど)を強調することは、政府機関による政治的なアジェンダ(例えば、一帯一路構想など)と巧みに結び付けられている。特に「バンドン精神」は、西洋帝国主義による被害という、中国と他国の「共通の犠牲者意識」を喚起するために繰り返し用いられてきた。1955年4月、インドネシアで開催されたバンドン会議で、中華人民共和国初代首相であった周恩来は、「ポストコロニアルの尊厳を獲得するためのパートナーシップ」というレトリックを用いて、アフリカおよびアジアの国家元首たちの間で好意的に受け入れられることに成功した[v]。BRICS諸国首脳会議や毎年開催される中国・アフリカフォーラムなど、中国の代表者は今日でも、この「共通の運命」という観点から参加者に頻繁に語りかける[vi]。
 

中国のインターネットを世界のネットワークから事実上遮断する「グレート・ファイアウォール」は、中国の規制当局にとってデジタル検閲の中核的手段である。この仕組みによって、党の公式解釈に合致しない情報へのアクセスは遮断される。AI (人工知能)ベースのアルゴリズムと機械学習が、コンテンツをリアルタイムで監視、フィルタリング、害あるものを削除するために用いられており、「望ましくない」歴史的ナラティブ(物語)を検出し、排除する。その代表的な例が、1989年の天安門事件に関する検閲である。中国では、1989年の事件に関連して「天安門」という表現は厳しく制限されており、抗議運動に関連する多くのコンテンツは即座にネット上から削除される。アルゴリズムは、この事件に関する投稿を識別して削除し、大虐殺に関する公の議論や記憶を妨げている。AI (人工知能)を利用したツールは、この問題に関連する画像、テキスト、さらには動画も識別してデジタルメディアから抹殺することで、重要な役割を果たしている。
 

もっとも、国家のプロパガンダが手にしている手段は、検閲だけにとどまらない。2017年、中国国務院は「次世代人工知能発展計画」を発表し、中国のAI分野におけるリーダーシップの基盤を確立するとともに、倫理的ガイドラインや法的規則を定める規範的枠組みの必要性を指摘し、一連の非常に具体的な法的要件を提示した[vii]。生成AIの進展に伴い、中国工業情報化部は、技術的・産業的基準に加え、安全保障上の要件を含む生成AIに関する国家指針を公表している[viii]。この枠組みの下で、中国のAIアプリケーションは、「社会主義の核心的価値観」と整合していることを保証しなければならず、そこには「重要な歴史的問題」も含まれる。その一例が、前述したように、西洋による何世紀にもわたる屈辱の後に、中国が世界的な超大国へと台頭した様子を描いた「中華民族の偉大な復興」というお話である。デジタルプラットフォームや公式メディアは、中国共産党の成功に焦点を当てつつ、また、社会・経済発展における国家の役割を前面に押し出しながら「この物語」を広く拡散している。解放記念日(リベレーション・デー)に米国政府が世界の貿易相手国に対して発表し、特に中国に大きな打撃を与えた懲罰的関税への対応として、中国外務省は 2025 年 4 月、AI(人工知能)によって生成されたプロパガンダ動画を公開し、中国の優位性を誇示している[ix]。
 

2. ロシア:「大祖国戦争」の復活
ロシアでも、デジタル空間は、歴史的なナラティブ(物語)を構築し、拡散するための厳格に管理された手段となっている。ウラジーミル・プーチン政権下のロシアは、ここ数年、国内でのナショナリズムを強化し、ロシアの地政学的目標遂行に資するため、とりわけ歴史的要素を重視してきた。その中でも、「大祖国戦争」(第二次世界大戦)をめぐる物語は、ロシアのアイデンティティ政治において中心的な役割を果たしている。
 

ロシアでは、第二次世界大戦というテーマが、愛国心を高め、世界を救った勝利者としてのソビエト連邦(ロシア)の役割を強調するため、繰り返し利用されてきた。この戦争は、犠牲と勝利に彩られた英雄的な物語として語られることが多く、ソ連の指導者、特にヨシフ・スターリンが中心的な役割を担った人物として称賛されている。デジタルプラットフォームでは、AI(人工知能)や機械学習が用いられ、こうした公式見解を補強するコンテンツが生成されている。具体的な例としては、5月9日の「戦勝記念日」に行われる毎年恒例の祝賀行事であり、ロシアはこの日第二次世界大戦においてソ連が果たした役割を大々的に称えている。ソーシャルメディアや国営のオンラインメディアでは、ソ連兵士やスターリンの支配を英雄的に描く画像、動画、投稿が拡散される。AI(人工知能)は、勝利や英雄を想起させるノスタルジックな映像表現を生成するために用いられ、戦争の記憶を感情的に盛り上げると同時に、「敵なるファシスト」に対する抵抗という物語を強調する役割を果たしている。
 

ソ連の英雄的行為を強調するだけでなく、AI(人工知能)は、ロシアとソ連を否定的に描く別の物語を排除するためにも用いられている。スターリンの独裁者としての顔や、それに関連する自国民に対する犯罪(大粛清や飢饉など)に関する歴史的事実は、公の議論からますます排除されていく。フコンタクテ(VK)、ヤンデックス・ニュース(Yandex News)、アドナクラースニキ(Odnoklassniki)などのソーシャルメディアやニュースポータルでは、AI(人工知能)によるアルゴリズムが批判的なコンテンツを検出し、その表示を制限したり、完全に削除したりしている[x]。さらに、ロシアは、現在のロシアの外交政策を正当化するため、冷戦の歴史や 20 世紀の地政学的紛争をロシアの視点に基づいて、書き換えようとしている。AI(人工知能)は、西洋の影響力を脅威として描き、これに対するロシアの「抵抗」を正当なものとして位置づけるコンテンツを作成するために利用されている。とりわけウクライナに対するロシアの侵攻戦争をめぐっては、ロシアが侵略者ではなく、自国の利益を防衛する主体であるかのように描くナラティブ枠組みが構築されている。

 

デジタル空間における規制と対応策

中国とロシアにおける歴史的ナラティブ(物語)構築のための AI(人工知能)とデジタルプラットフォームの使い方は、この二つの資源が権力行使のための道具として使われていること、すなわち、言説における主張の絶対的強さと技術分野における優位性が、政治的な統制のための影響力のある手段へと発展していることを示している。人工知能と歴史的ナラティブ形成の結び付きが強まるにつれ、政治的影響力の行使、技術的制御可能性、さらには国際的規制の在り方をめぐる複雑な問題が浮上している。とりわけ、選択的記憶やデジタル技術によって誘導される歴史解釈がもたらす危険性には、十分な注意が払われなければならない。
 

すでに情報空間においては、本格的な分断(デカップリング)が起きており、その背景には、情報主権をめぐる考え方が並立し、しかも互いに折り合えない形で存在しているという現実がある。中国は、「デジタル主権」という独自の概念を掲げ、自国の領域内ではインターネットを技術的にも政治的にも[xi]自律的に管理、統制、構築する国家の権利を主張している。その一方で、中国はデジタル空間における情報へのアクセスを意図的に制限するなど、オープンでグローバルなインターネットを標榜する西側のリベラルな概念とは明らかに異なるモデルを追求している。機械がコンテンツを生成し、フィルタリングすることができる世界においては、事実と虚構を区別することは、多くの人々にとって次第に困難になっていく。こうした中で、重要な問いとして浮上するのが、今後ますます普及していく中国製AI(人工知能)による大規模言語モデル(Large Language Models)が、世界各地のデータセットを基に学習されるのか、それともデジタルな分断の論理に沿って、西側のアプリケーションから次第に乖離し、結果として特定の見解や解釈の固定化を助長する方向に進むのか、という点である。この問いを解く最初の(暫定的な)ヒントは、DeepSeek-R1 言語モデルを分析した結果から得られている。プロパガンダ的要素や反米感情的使用を、テーマ横断的に検証した同分析では、ナラティブの内容が、言語(中国本土で用いられる簡体字、台湾・香港で用いられる繁体字、そして英語)によって異なっていることが確認されている[xii]。
 

したがって、モスクワや北京の政策決定者たちとの関わりにおいて、また AI (人工知能)の設計と規制をめぐる私たち自身の行動の可能性について考える上でも、以下の点が引き続き非常に重要なのである。
 

  1. 国家が推進する「大いなる物語(メタ・ナラティブ)」が、ターゲットとなった国で必ずしも社会全体に浸透するわけではないが、グローバルなデジタルプラットフォーム上にそれらが存在すること自体が、社会の分極化の傾向を強めてしまう。このような背景から、西側諸国では、こうした影響力工作を把握し、評価する能力の重要性が増しており、そのためには、オープンソースへのアクセス拡大、独立した研究インフラの促進、デジタルレジリエンスをめぐる行政と市民社会のより緊密な連携などといった、国家としての対応力を強化することが有効な策となるであろう。これらの点を鑑みると、アナログ空間とデジタル空間のいずれもが、単なるコミュニケーションの場ではなく、戦略的な影響力が行使される空間であると認識する必要性が浮かび上がってくる。
  2. ポストコロニアルな言説の中では、AI(人工知能)を活用して拡散されたナラティブ(物語)が一定程度の影響力をもつことを示す要素は多く見られるものの、その長期的な影響を抑制する余地はまだ残されている。多くの場合、こうした言説の目的は、外国の意思決定者に短期的な影響を与えることにある。多くの言説は、誤った情報に基づくものであるとすぐに理解できる程度のものであり、他の論点から人々の注意を逸らすために流布されている場合も少なくない。さらに、発信者本人の権威主義的な性格が、彼らのメッセージの信頼性を損ない、逆にその信憑性を疑問視する攻撃にさらされるという側面ももっている。こうした弱点は、欧州の国家機関、学術機関、各種団体、および非政府組織が、より首尾一貫して取り組むべき課題である。そのためには、ナラティブを見つけ出し、それをファクトシートやオンラインデータベース上で体系的に整理する言語学の専門家たちによるプロジェクトへの長期的な支援が必要である。
  3. 中国やロシアは、代替的なナラティブ(オルタナティブストーリー)の創出に非常に積極的に取り組んでいる。ストーリーテリング(物語を語ること)は、自らのメッセージを効果的に伝えるための重要な手法となっている。両国とも、主に二つの方法を使って、自国のナラティブを正当化する傾向がある。ひとつは、国際社会で使用されている言語を、一見、国際秩序を特徴づけるリベラルな価値観に関連していると思わせる用語や概念に調整すること。そして二つ目は、強制的な手段を用いて、例えば、ターゲットとなった国に圧力をかけ、その国の(言語的)情報空間において、ロシアや中国の立場と矛盾する報道が行われないようにさせるといった対応である。こうした戦略的な調整と抑圧的な手法の組み合わせは矛盾しておらず、国際的な受容性を確保しつつ、情報空間を制御するという、意図的な二重のアプローチの表れである。こうした二つのメカニズムの共存について、自由民主主義国家陣営でも、より包括的に分析していく必要がある。
  4. 一方、欧州側では、中国語、ロシア語、その他の言語で質の高い報道を提供するための取り組みを強化する必要がある。そうすることで初めて、矛盾点をあぶりだし、歴史上の事実を整理・補完し、プロパガンダ的なアジェンダに内在する弱点を指摘することが可能となる。サブサハラアフリカや東南アジアなど、独立したメディア報道へのアクセスが少ない社会でも、同様の取り組みを行うべきである。そのため、我々のほうも、「同じ価値観」を持たない国家や社会もパートナーとして捉えるべきである。虚偽のナラティブ(物語)の拡散と闘う上で決定的に重要なのは、権威主義的な政権の圧力にさらされ、独立した情報源を欠いている社会に対する働きかけである。
  5. 中国は、他国との経済関係や財政的義務を利用し、忠誠を要求することで、ここ数年、特にラテンアメリカやアフリカ諸国、そして徐々に中東・北アフリカ地域(MENA地域)、西バルカン、西太平洋地域からも多大な支援を集めることに成功している。中国は、自国の「国益」に関する独自の解釈について、あらゆる対話において各国の同意を得ている。このことは、当該諸国およびその政治エリートの二国間・多国間における行動に、重大な影響を及ぼしている。これらの国の多くは、経済的には中国への依存を強める一方で、政治的な自主性をどこまで維持できるかという難しい状況に置かれている。中国は、投資によるだけでなく、ポストコロニアル的なナラティブ(物語)を意図的に活用して、その影響力を拡大することに成功している。その際、「主権」「発展」「多極的秩序」といった概念は、西側による支配の歴史と意図的に対比させる形で用いられている。こうした「語り」の説得力は、外国による支配、搾取、上から目線の開発レトリックといった歴史的経験に支えられ、多くの地域において、単なる利害政治を超えた道徳的正当性を中国に与えている。このように複雑な緊張関係の中で、ドイツやヨーロッパの関係者も、「語りの次元で対抗できる」能力と、この環境に対応するための専門知識を獲得する必要があることは明らかである。この点では、地域研究(中国における「エリア・スタディーズ」)や、国や地域に関する学際的な能力強化など、現在取り組んでいる対話アプローチが重要な役割を担っている。これらを、大学のカリキュラムや政治的実践の場に、より強く組み込んでいくことが求められる。
     


本稿は、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(
KAS)により2025725日に発行された『Auslandsinformationen(海外情報)』2025年第2版『Neue alte Wunden – Koloniales Erbe und Außenpolitik(再び蒸し返される古い傷-植民地時代の遺産と外交政策)』の中で書かれたドイツ語の記事『Postkolonialismus und was sonst noch so nützt Zur Geschichtspolitik autoritärer Staaten im digitalen Raumポストコロニアリズムという使える「資源」-デジタル空間における権威主義国家の歴史政策について)』を日本語に翻訳したものである。


 

[i]       ロシアについては、Fischer, Sabine 2023を参照: ­ Diplomatie im Kontext des russischen Überfalls auf die Ukraine(ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる文脈における外交「仮訳」)ドイツ国際安全保障研究所(SWP)-Aktuell アクチュエル(最新状況)2023年第56号、2023年10月23日発行:https://ogy.de/rtjk [2025年6月25日閲覧]

[ii]       アヘン戦争の悲惨な結果と数十年にわたる弱体化により、清王朝が西洋列強に広範な領土割譲を余儀なくされたことで、旧帝国が失った地位を取り戻す。習近平氏の第 19 回全国党大会での演説も参照のこと。習近平氏演説2017年: Secure a Decisive Victory in Building a Moderately Prosperous Society in All Respects and Strive for the Great Success of Socialism with Chinese Characteristics for a New Era(小康社会の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利をかち取ろう)(http://jp.xinhuanet.com/2017-10/28/c_136711568.htm)2017年10月18日発信、新華網:https://ogy.de/89b8 [2025年6月30日閲覧]

[iii]      Naduvath, Jaibal 2025: The enduring allure of grand narratives in the digital age(デジタル時代における壮大な物語の永続的な魅力「仮訳」)、Observer Re­search Foundationオブザーバー・リサーチ財団、2025年2月24日発行:https://ogy.de/­ 84a7 [2025年5月5日閲覧]

[iv]      Ottinger, Lili / Wang, Afra 2025: DeepSeek and Destiny A National Vibe Shift. How an AI startup reignited the concept of national destiny(国运)(DeepSeekと国家的運命観の再浮上――AIスタートアップがもたらした国民的意識の変化「仮訳」), ChinaTalk(チャイナ・トーク(ポッドキャスト)), 2025年3月4日発信: https://ogy.de/ua5k [2025年5月31日閲覧]

[v]       Kuo, Kaiser Y 2025: The Bandung Paradox: China’s Anti-Colonial Legacy and Its Global Future(バンドンの逆説――中国の反植民地主義的遺産とそのグローバルな未来「仮訳」), The Sinica Podcast(シニカ・ポッドキャスト)2025年2月24日発信:https://ogy.de/1no4 [2025年6月2日閲覧]

[vi]      同上。

[vii]     Sprick, Daniel 2025: Aligning AI with China’s Authoritarian Value System(中国の権威主義的価値体系に沿ったAIの制度化「仮訳」), The Diplomat(ザ・ディプロマット誌)2025年2月3日発行:https://ogy.de/3lp9 [2025年5月31日閲覧]

[viii]     同上。

[ix]      この動画は、中国外務省によって、関連するあらゆる公式チャネルを通じて投稿・公開され、その一つとしてYouTubeにも掲載された。The Washington Examiner (ワシントン・エグザミナー)2025年: China’s Ministry of Foreign Affairs posts video titled „Never Kneel Down!“(中国外務省、「Never Kneel Down!(決して屈するな!)」と題したビデオを投稿「仮訳」) 2025年4月29日発信:https://ogy.de/nmm3 [2025年5月5日閲覧]

[x]       フリーダムハウスは、ロシアのプラットフォームが体系的にコンテンツを削除したり、その可視性を制限したりしていることを記録している。特に、トロント大学のシチズンラボの報告によると、ロシアのSNSである VKontakte はコンテンツの削除を大幅に増加させている。具体的には、94,942 本の動画、1,569 のコミュニティアカウント、787 の個人アカウントがブロックされた。さらに、Yandex のソースコードのリークにより、検索アルゴリズムが特定の批判的な用語をフィルタリングし、例えばプーチン大統領に対する否定的な表現を回避する仕組みが組み込まれていることが明らかになっている。Freedom House(フリーダムハウス)2024: ロシア:https://ogy.de/hovs [2025年6月3日閲覧]; Knockel, Jeffrey et al. 2023: Not OK on VK: An Analysis of In-Platform Censorship on Russia’s Vkontakte(VKでは許されない――ロシアの VKontakte におけるプラットフォーム内検閲の分析「仮訳」), Citizen Lab(シチズンラボ), 2023年7月26日発信: https://ogy.de/­soxj [2025年6月11日閲覧].ここでは、ロシアのSNSである VKontakte における検閲メカニズムが示されている。「過激主義的」と見なされたコンテンツ――その中には、批判的な歴史的ナラティブも含まれる――は、自動化されたシステムによって削除されるか、あるいは可視性が制限される。調査の結果、VKontakteは公式の歴史認識と一致しないコンテンツを、ますます積極的にブロックしていることが明らかになった。

[xi]      Creemers, Rogier 2020も参照すること: China’s Approach to Cyber Sovereignty(サイバー主権をめぐる中国の考え方「仮訳」), Konrad-Adenauer-Stiftung(コンラッド・アデナウアー・シュティフトゥング)2020年11月25日付記事: https://ogy.de/ercj [2025年6月11日閲覧]

[xii]     Taiwan AI Labs (台湾AIラボ)2025: Analysis of LLM Bias (Chinese Propaganda & Anti-US Sentiment) in DeepSeek-R1 vs. ChatGPT o3-mini-high(DeepSeek-R1 と ChatGPT o3-mini-high の比較に基づく、大規模言語モデルのバイアス分析――中国のプロパガンダおよび反米的言説傾向「仮訳」)2025年5月: https://ogy.de/e3go [2025年6月3日閲覧].

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