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開発協力におけるトルコの連携型アプローチ

国家ブランディング、利益誘導型 の政治、新たな同盟関係

トルコは、過去20年の間に、開発援助および人道支援における世界最大のドナー国の一つに成長した。中所得国であるトルコが、2018年には一時、80億米ドル以上を拠出し、米国、EU、ドイツを上回り、人道支援ドナー国として世界第1位に躍り出た 。国内総生産(GDP)比で見ると、トルコは現在、人道支援のドナー国として世界第2位の地位を自認している 。OECD加盟国の中でも、トルコはシリア難民を多数受け入れていることから、政府開発援助(ODA)の割合も最も高い国のひとつとなっている 。

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人道支援ドナー国としての役割は、今日ではトルコの外交的アイデンティティの一部を成している。2013年以降、アフメト・ダウトオール前外相が、「人道外交(Humanitarian Diplomacy)」という概念をトルコ外政の重要な柱として打ち出したほか[i]、2023年5月にはエルドアン大統領が「トルコの世紀」に向けた船出だと宣言した。これらは共に国際協力におけるトルコの役割の拡大に支えられている。トルコは、いわゆる「グローバル・サウス」における信頼できるパートナーとして、また西側の援助国や中国に代わる存在として、その地位を確立しようとしている。トルコは、OECD開発援助委員会(DAC)に属する伝統的な西側援助国とも、中国、ブラジル、インドなどの新たな「南」の非DAC援助国とも違う、第三の道を進もうと模索している。トルコはOECDの創設メンバーであり、1991年以降はOECD DACにオブザーバーとして参加しているが、DACへの正式加盟は目指していない[ii]。この特異な立場を利用して、トルコは自国の利害に応じて、伝統的ドナーが構成するDAC体制の内側で行動し、DACとデータを共有することもできれば、西側援助国と政治的に距離を取ることも可能となっている。独自に掲げる「トルコ式」の開発モデル、いわゆるトルコ型開発援助モデル(Turkish-type Development Assistance Model)は、価値と利益のバランスを追求することを特徴とし、人道的・地政学的・安全保障上の利害が相互に作用する現実を否定していない[iii]。トルコは、被援助諸国に対し対等な立場でウィンウィンの関係を、「隠れた意図」や新植民地主義的姿勢なしに構築すると約束している[iv]。同時に、人道的価値を外交上の利益、さらには被援助諸国における経済活動や輸出の促進と結びつけている。
 

トルコはまた過去20年間、世界の多くの地域で、政治、経済、軍事面での関与を大幅に拡大し、多様化させてきた。外交の多角化は、ネジメッティン・エルバカン首相(1996年から1997年)の下で始まり、その後AKP政権によって継続・発展してきた。かつての世俗主義的なケマリストエリート層[v]は、外交政策において純粋に西側諸国との結びつきを追求し、南側諸国やイスラム諸国との深い関係構築をほとんど志向しなかったのに対し、AKP指導部は、イスラム・オスマン帝国およびアフリカ・ユーラシアの遺産をアイデンティティの基盤として活用する、多角的な外交政策を展開している[vi]。また、国際的な場においては、反植民地主義のレトリックを用いて、かつての西側植民地勢力とは一線を画している。エルドアン大統領が「世界は5か国よりも大きい(The World is bigger than Five)」というスローガンを掲げて国連安全保障理事会の改革を要求しているように、トルコは自らの新たな国際的地位を主張している[vii]。アフリカ、バルカン半島、中東において、トルコは、人道支援と開発援助、民間直接投資、教育および奨学金プログラム、武器輸出、安全保障および防衛協定、外交的プレゼンスを組み合わせることで、最も重要な役割を担う国の一つに成長した。この過程において、トルコ式モデルは、ソフトパワーハードパワーへと転換することに成功してきた。

 

「トルコ式」の開発援助 – AKPの成功モデル?

2002年以降のAKP主導政権の下で、トルコ外交における開発協力の重要性は著しく高まった。その背景には、新たに政権を掌握したAKPが、依然として旧来のケマリスト系エリートの影響が強く残っている巨大な官僚組織をすぐには動かせなかったため、開発援助機関であるトルコ国際協力調整庁(TİKA)などの比較的小さくコントロールしやすい政府機関を通じて、自らの影響力や支配を拡げようとしたという事情がある[viii]。したがって、現在のハーカン・フィダン外相が2003年から2007年までTİKAの総裁を務め、2010年にトルコ国家情報機構(MİT)の長官に任命されたことは偶然ではない。フィダン氏の指揮の下、TİKAの活動は4倍に拡大し、特にバルカン半島とサハラ以南のアフリカで大きく躍進した。2003年から2013年にかけて、TİKAの予算は1992年から2002年までの期間と比べて約5倍に増加している[ix]。
 

TİKA(トルコ国際協力調整庁)によると、現在170か国に63の在外拠点を構え活動を行っている[x]。設立当初の目的は、開発途上国との経済的・商業的・社会的・文化的協力を調整・促進することであった。加えて、海外におけるトルコ語教育の普及にも取り組んでいる。1992年に外務省の一部門として設立されたTİKAは、現在は文化観光省の管轄下に置かれている。

TİKA設立後の最初の10年間(1992年から2002年)は、中央アジアのテュルク系諸国およびバルカン半島のテュルク語系少数民族が居住する国々に対する援助に重点が置かれていた。トルコは、自らをこれらの地域における「自然な保護国」として位置づけ、ソ連崩壊後の国家的アイデンティティ形成の過程を、トルコ語、トルコ文化、宗教を軸とする政策を通じて支援してきた。2002年以降はAKP主導政権のもと、その活動は世界規模へと拡大した。中でも最も顕著なのが、アフリカにおけるトルコの影響力の大幅な拡大である。
 

TİKAの活動内容は、2015年に国連で採択された17の持続可能な開発目標(SDGs)に基づいている[xi]。インフラ整備、行政能力構築、警察訓練、保健・医療、教育に加え、気候変動への適応や、女性、農村部住民、若者といった周縁化された人々の経済的・社会的包摂に至るまで、幅広い分野のプロジェクトを支援している[xii]。TİKAは、西側諸国の援助機関と同様に、危機・紛争管理および国家建設(ステートビルディング)にも取り組んでいる。一方、民主化や国民の政治参加への促進は、その活動範囲には含まれていない。
 

TİKAのほかにも、トルコ対外協力事業には、数多くの政府機関が関わっている。その主なものとしては、言語・文化機関であるユヌス・エムレ研究所[xiii]、マーリフ財団、宗教庁(ディヤーナト)、在外トルコ人・家族コミュニティ庁(YTB)[xiv]、災害緊急事態対策庁(AFAD)[xv] 、準公的な組織であるトルコ赤新月社(クズライ)が挙げられる。これに加え、トルコ国家は多数の市民社会組織と緊密かつネットワーク化された形で連携している。2016年までは、ギュレン運動に近い教育機関や関連組織が、現地で重要な人脈や関係を構築するためのフロント組織として機能していた。しかし、2016年のクーデター未遂事件後、トルコ政府は、国外のトルコ人系組織に対する統制を強化した。ギュレン運動が海外で運営していた数多くの学校や教育機関は、この目的のために設立された国営のマーリフ財団に移管された。同財団は現在、アフガニスタン、イラク、ソマリアなど60以上の国々で、学校や中等教育機関、奨学金プログラムを展開している。
 

政府機関や非政府組織によるネットワークと並行して、輸出志向のトルコ企業―その経営者の多くはAKPや個々の政府要人と近い関係にある―が、この連携型アプローチの重要な役割を担っている。例えば、エルドアン大統領の義理の息子であるセルチュク・バイラクタル氏は、ドローンの製造・輸出企業であるバイカルの最高技術責任者であり、ドローン開発プログラムの研究開発における中核的人物の一人である。2000年代初頭にアナトリア地方で数多くの中堅・輸出志向型企業が台頭したこと(いわゆる「アナトリアの虎」)は、AKPの成功モデルを支える経済的基盤を築いた。保守的な中堅企業経営者や起業家はAKP指導部にとって重要な支持基盤であり、継続的に新たな販路の開拓を求めている[xvi]。保守的でAKPに近い独立産業家・実業家協会(MÜSİAD)の支援のもと、彼らは対外経済政策における緊密な関係構築において先駆的な役割を果たした[xvii]。2011年のアラブの春を受けて、多くのアラブ諸国との政治関係が悪化する中で、とりわけアフリカが新たな市場として注目されるようになった。さらに、2016年のクーデター未遂事件以降、トルコの防衛産業は新たな勢いを得て、国内にとどまらず国外にも追加的な販売市場を求めるようになっている[xviii]。

 

地域性を重視した協力の供与

当時の外相アフメト・ダウトオールの主導により、AKP政権下のトルコ外交ではオスマン帝国の遺産への回帰が見られるようになった。一部のオブザーバーによって「ネオオスマン主義」と呼ばれるこの方向性は、トルコに現在の地理的境界を超えた役割を課し、建国の父アタテュルクやケマリストエリートたちによる西側志向の外交路線から、初めてアフリカ、中東、イスラム圏のアジアへと多角化された。
 

オスマン帝国時代の歴史的な関係は、理想的な接点として活用されている。かつてオスマン帝国の勢力下にあった国々に対して、トルコは特に支援と連帯の義務があると考えており、歴史的・文化的、言語的、宗教的な共通点を強調している[xix]。かつてオスマン帝国の統治下にあり、その影響を強く受けた地域に現在存在する国々は、人道支援や開発資金において、そのほかの国々と比べて5倍の支援を受けている。さらに、トルコ語を話すイスラム諸国は、他のイスラム諸国よりも2倍の人道支援を受けている[xx]。

トルコはバルカン諸国と緊密な二国間関係を維持し、対外的な文化・宗教政策を積極的に展開している。トルコの開発援助資金の主な受益国は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、コソボ、アルバニアであり、教育、保健衛生、中小企業支援、およびこの地域におけるオスマン帝国の遺産の保存などといった様々なプロジェクトを行っている。宗教庁(ディヤーナト)[xxi] は、ベオグラードを除き、西バルカン地域のすべての首都に事務所を設置している。
 

コーカサス地域においては、アゼルバイジャンとの特別な関係(「一つの民族、二つの国家」という原則)に基づく独特な政策を展開している。1991年にアゼルバイジャン、アルメニア、ジョージアの独立をいち早く承認すると、テュルク語圏の一部である南コーカサスを、ソ連崩壊後の中央アジアへの架け橋として位置づけるようになった。アゼルバイジャンとジョージアでは、トルコ国際協力調整庁(TİKA)が重要な役割を担う機関として定着しており、行政、司法制度構築、インフラ、安全保障、保健衛生、教育、文化遺産の保護などの分野でプロジェクトを推進している。2008年のロシアによる対ジョージア戦争の後、同国の復興支援を担ったのはTİKAである。
 

トルコの人道支援や開発援助の資金の多くは、中近東諸国に向けられている。主な支援先は、シリア、パレスチナ、イラク、リビアである。シリアで2011年に内戦が始まって以来、トルコは最も積極的な政治・人道支援国の一つとして台頭し、2024年のバッシャール・アル=アサド政権崩壊と、それに続くロシアおよび親イラン系・シーア派民兵の撤退以降、最も影響力のある国の一つと見なされている。政権崩壊前から、トルコは軍事、人道、メディアといったあらゆる角度でシリアに関与しており、例えば、ダービクへの軍事基地設置、トルコ赤新月社やİHH財団といった人道支援団体の活動、アザーズでのアナドル通信社の事務所設置などを行ってきた。
 

パレスチナでは、パレスチナ・イスラム教徒の利益に連帯する政策を取り、パレスチナのテロ組織ハマス(Hamas)の政治部門とは長年にわたり良好な関係を維持している。ガザ戦争以降、トルコはガザにおける人道支援をさらに拡大し、トルコ赤新月社、TİKA、トルコ保健省、ならびに複数のトルコ系NGOが、ガザで現金寄付活動、野戦病院の設置、医薬品、食料パッケージ、飲料水、衣類、衛生用品、さらには燃料や発電機の提供などを行っている。中でも特に、保守的なイスラム組織であり、トルコ政府も支援しているİHHは、重要な対ガザ支援組織であるが、現地の事務所を通じて、支援物資の輸送船団を組織し、イスラム主義組織と協力しているとして、これまでにも繰り返し批判を受けている[xxii]。
 

アフリカではこの20年で、トルコの存在感は大きく増し、かつ、多方面にまで広がり、外交、開発協力、人道支援、安全保障、防衛などの分野において、明確な存在感を示すアクターであると同時に、主要な投資国となっている。トルコ国際協力調整庁(TİKA)は、サハラ以南のアフリカに18の海外事務所を構えている。また国営のマーリフ財団は、同じくサハラ以南のアフリカ25か国で160の学校を運営しており、そのほとんどは西アフリカ(特にマリ)に集中している。このほか、ユヌス・エムレ研究所は、アフリカの9か国に拠点を置いている。

 

人道支援、対外経済活動促進、地域的利益の相互作用

過去20年にわたり、開発協力および人道支援は、トルコを国際的に認知されたドナー国家として確立することに寄与してきたと同時に、トルコの国家ブランディングに資する役割を果たしてきた。これらは、世界のさまざまな地域におけるトルコのソフトパワーの強化に重要な貢献をしているとみなされている[xxiii]。民間および人道支援、そして積極的な(平和)外交[xxiv] は、貿易、エネルギー、あるいは軍備および防衛協定の分野における、より深化した関係構築への道をしばしば切り開いている。加えて、トルコの開発援助の受益国は、国連において親トルコ的な投票行動を示している[xxv]。
 

開発パートナーシップと対外経済活動の促進は相互に補完し合い、相乗効果をもたらしている。トルコからの開発援助が多い国ほど、トルコとの貿易額も大きい傾向がある。さらに、トルコ国営企業や政府系企業は、第二次ナゴルノ・カラバフ戦争後や、アサド政権崩壊後のシリアなど、復興事業に関与している。
 

こうした開発協力、外交、そしてトルコ企業の輸出促進がもたらす積極的な相乗効果は、アフリカにおいてとりわけ顕著である。海外におけるトルコ民間企業間の関係を調整するトルコ海外経済評議会(Foreign Economic Relations Board)は、アフリカで48のビジネスカウンシルを運営している[xxvi]。これに対し、フランスはビジネス・フランス(Business France)を通じて、アフリカ大陸に13の地域事務所を有するに留まっている。トルコはアフリカを、インフラ、飲食・ホテル業、繊維・家具産業、さらには軍需・防衛分野に至るまで、トルコの企業やサービス提供者にとって巨大な市場と捉えている[xxvii]。また、トルコ政府は、アフリカにおける対外経済活動を政治・戦略的に支援している。アフリカ国民はトルコビザを簡単に取得でき、多くの国がビザ免除の対象となっている。2002年以降、アフリカにおけるトルコの外交拠点は大幅に拡大し、大使館数は12か所から44か所へと増加した。さらに、半国営の航空会社であるトルコ航空は、サハラ以南のアフリカ39か国51都市に就航している[xxviii]。
 

特にアフリカでは、トルコの地政学的、外交的、開発政策的な取り組みが相互に補完し合っている。2005年に「アフリカ年」を宣言して以降、トルコはアフリカ大陸でのソフトパワー獲得戦略を非常に効果的に推進してきた。この戦略は、ファーストレディのエミネ・エルドアン氏によるパブリック・ディプロマシー・キャンペーンによって支えられてもきた。ファーストレディは、20か国以上のサハラ以南のアフリカ諸国を夫と共に訪れ、2016年には、アフリカの女性起業家を支援するための「アフリカハウス」をアンカラに開設した。最近では、トルコのアフリカ政策に武器輸出戦略が加わり、トルコ製の武器、特にベストセラー製品であるバイカル社製のバイラクタルTB2ドローンの販売を、政治的な資本としても活用している(「ドローン外交」)。トルコは30か国以上のアフリカ諸国と二国間の安全保障・防衛協定を締結しており、21か国において軍事訓練ミッションを実施している[xxix]。
 

ソマリア、シリア、リビア、スーダン、アフガニスタンなどは、トルコが人道支援、開発協力のみならず、外交、経済、軍事の各分野において特に高い関与を示してきた顕著な事例である。ソマリアとアフガニスタンの事例は、一方では人道支援がより深化した戦略的関係への道を切り開き得ることを示しており、他方ではトルコがイスラム国家でありながらNATO加盟国でもあるという立場を生かし、橋渡し的役割を果たし得ることを証明している。

 

ソマリアにとって最も重要な人道支援国、安全保障のパートナー、投資国であるトルコ

トルコは、2011年の人道危機において、ソマリアにいち早く支援の手を差し伸べ、連帯の意を表した国の一つであった。メディアでも大きく報じられた2011年から続くエルドアン大統領の公式訪問は、今日に至るまで他に例を見ないトルコとソマリアのパートナーシップへの道を切り開いた。ソマリアは現在、トルコにとってアフリカへの「玄関口」となっている。トルコは、ソマリアにとって最大の援助国であり、パートナーであり、投資国でもある。モガディシュにあるTİKA事務所は、インフラ、教育、保健衛生分野のさまざまなプロジェクトを実施している。1991年の内戦以来閉鎖されていたモガディシュのトルコ大使館は2011年に再開され、2014年にはハルゲイサに総領事館が開設された。ソマリア人学生を対象とした大規模な奨学金制度、直接投資、そして実業家、医師、技術者、開発援助関係者から成るトルコ人ディアスポラは、人と人との関係を築き、ソマリアにおけるトルコの文化的影響力とソフトパワーの基盤となっている。現在、ソマリアでは「イスタンブール」という言葉が女性の名前として用いられているほどだ[xxx]。

2017年以降、ソマリア治安部隊の訓練を目的として、トルコはモガディシュに海外における基地としては最大規模の軍事基地(キャンプ・トゥルクサム)を運営しており、さらに東アフリカに海軍基地を設置することを目指している。モガディシュの国際空港、港湾、主要なホテルや病院は、トルコ企業によって運営され、2024年末にはロケット実験のための宇宙港をソマリアに建設すると発表した[xxxi]。また2020年以降、トルコはソマリア沖合の石油資源開発にも関心を示している。
 

外交面では、トルコは地域紛争の仲介役として存在感を示している。2013年以降、ソマリアと、分離独立を宣言した自治地域ソマリランドとの間の対話を仲介し、ソマリア和平プロセスにおいて重要な役割を果たしてきた。さらに、2024年12月には、仲介の結果、「アンカラ宣言」を通じてソマリアとエチオピアの間で初めて関係改善が実現した。
 

しかし、アフリカの角地域におけるトルコの政治的、地政学的、軍事的関与の拡大に伴い、反発や批判も強まっている。2024年7月にトルコの国営石油会社がソマリア石油当局と締結した、ソマリアの石油・ガス資源開発に関する契約は、国内で激しい批判と反対を招いた[xxxii]。さらに2013年以降、トルコの利益や施設は、繰り返しテロ組織アル・シャバブの標的となっている。

 

イスラム国家として唯一のNATO加盟国であり、またアフガニスタンとの対話仲介者としてのトルコ

トルコは、2021年のタリバンによる政権掌握まで、アフガニスタンの歴代政権にとっては対NATOおよび開発分野のパートナーであった。トルコは、米国、ドイツ、イタリア、英国、ジョージア、ルーマニアと並び、最後まで最大級のNATO部隊を派遣し続けた国の一つでもある。軍事的に関与しつつも、可能な限り民生的かつ文化的配慮のある存在として認識されるよう努めていた点が特徴的である。当初担当していた、ヴァルダク州とジョウズジャーン州におけるNATOの地方復興支援チーム(PRT)は、唯一、文民の外交官によって指揮されていた活動であった。さらに、アフガニスタンでは同国最大規模の開発支援プログラムを展開しており、マーリフ財団は45校の学校を運営していた。その中には多くの女子学校や女性向け教育プログラムが含まれていたほか、アフガニスタン人学生に対して累計4,000件以上の奨学金が供与された[xxxiii]。
 

また、NATO加盟国の中で唯一のイスラム国家であるトルコは、その立場を活かし、アフガニスタン和平交渉の仲介役(「イスタンブール・プロセス」)を申し出た。また、カタールとの緊密な関係を背景に、当時ドーハに拠点を置いていたタリバン指導部との間に信頼に基づく対話チャネルを築いた。約20年にわたる戦争の間、トルコ航空が運航する数少ない国際定期便は、外国の援助機関にとって現地活動を支える重要な交通手段であった。タリバンが政権を握った後も、トルコはカブールにある大使館を閉鎖せず、現在では中国、ロシア、日本、インドと並んで、タリバン政権と政治的な関係を維持している。

 

国際協力の総括

中国、インド、アラブ湾岸諸国、ブラジルなどの新たな援助国が登場したことで、今日の国際援助市場では競争が激化している。トルコは、人道・開発援助ドナーとしての役割を巧みに活用し、国際的な影響力の拡大と地域的利益の確保を進めてきた。トルコの影響力を語る上で見過ごせないのが、奨学金制度、半国営の航空会社であるトルコ航空による広範な直行便ネットワーク、そして現地住民に直接的な利益をもたらすことを謳う直接投資である。
 

トルコは一見すると、西側諸国の価値外交や「上から目線の関与」に代わり、「グローバル・サウス」における「対等性」や「ウィンウィンの関係」を求める時代精神を、国際関係の中でより的確に体現しているように見える。多くの被援助国において、トルコは西側の援助国や中国よりもはるかに高い受容性と好意を得ている。特に、ポストコロニアリズム、多極的な同盟関係、新興地域大国の台頭、そして南側諸国における生活水準向上への期待が高まる時代において、西側諸国の威信の低下や中国に対する懐疑の高まりからトルコは大きな恩恵を受けてきた。
 

もっとも、トルコが多くの地域で獲得してきた相当なソフトパワーにもかかわらず、その関与は課題にも直面している。2018年から続くトルコの経済・インフレ危機は、財政的余力を大きく制約している。また、トルコの開発協力における構造的な弱点として、ODAの透明性の低さが挙げられる。2022年の援助透明性指数(Aid Transparency Index)では、TİKAは50機関中49位にランクインされた[xxxiv]。そのため、どこまでがレトリックや国家ブランディングで、どこからが現実なのかが必ずしも明確ではない。
 

さらに、シリア、リビア、イラク、スーダンなどにおける軍事関与の拡大、資源や市場確保を目的とした積極的な対外経済政策、特定の宗教的・政治的勢力への支援は、抵抗や対立を生み出し、トルコが中立的ドナーであるという信頼性を損なう可能性がある。トルコはもはや人道支援の主体であるだけでなく、多くの地域で政治的・経済的影響力をめぐり他のアクターと競合する存在となっている。政治的、軍事的、地政学的な存在感は、必然的に政治的抵抗も生む。それでもなお、アジア、ヨーロッパ、アフリカの結節点に位置するトルコの影響力は、今後も拡大していくと見られている。
 

多くの地域でトルコの影響力が高まっていることを踏まえ、ドイツはトルコ式援助モデルの強みと弱みから教訓を引き出すことができる。ドイツの国際協力では、援助経済やドナーと被援助国の依存関係を永続させるのではなく、市場経済的アプローチ、貿易・投資促進により重点を置き、双方にメリットのある関係を構築すべきである。真の現地の自主性は、移転支出によってのみ確立されるものではない。
 

対等な関係に基づく政策であっても、ドイツが自国の国益を必ずしも犠牲にするとは限らない。外交、安全保障・防衛、経済協力、開発協力といった対外関係の諸分野は、戦略的に一体として捉えられる必要がある。国際援助の現場では、国家および同盟の防衛、偽情報対策、犯罪・テロ対策、サプライチェーンや市場、対外投資の保護、エネルギー・資源安全保障、生態系の保全、移民管理など、多岐にわたる国益をしばしば同時に考慮しなければならないからだ。

ドイツは、それぞれの地域の一般市民に自分がどうみられているか強く意識する必要がある。現地事情への理解と文化的感受性を持つことで、地域の事情に精通したよりきめ細やかな国際協力が実現できる。ドイツ国内の社会・価値観を他国や他の社会にそのまま持ち込もうとすれば、共感を得られないか、最悪の場合には反発を招くことになる。自らの価値観を前面に押し出さず、現地の住民が実感できる具体的な改善をもたらす場合にかぎり外国の関与は、歓迎される[xxxv]。価値と利益の間に存在する緊張関係は、トルコ式援助モデルが示唆するものとは異なり、完全に解消することはできないだろう。より実務的で、イデオロギー色の薄い、分野によっては政治的に抑制的なアプローチの方が、成功の可能性は高いだろう。

 

 

本稿は、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(KAS)により2025926日に発行された2025年『Auslandsinformationen(海外情報)』第3版『Entwicklungszusammenarbeit – Globale Trends und Lehren für Deutschland(開発協力グローバルトレンドとドイツへの教訓)』の中で書かれたドイツ語の記事『Der vernetzte Ansatz der Türkei in der Entwicklungszusammenarbeit – Nation Branding, Interessenpolitik und neue Allianzen(開発協力におけるトルコの連携型アプローチ - 国家ブランディング、利益誘導型の政治、新たな同盟関係』を日本語に翻訳したものである。

 

 

[i]       Altunışık, Meliha Benli 2019: Turkey’s Humanitarian Diplomacy: The AKP Model(トルコの人道外交、AKPモデル「仮訳」),CMIブリーフ第8号(クリスチャン・ミケルセン研究所)2022年9月発行、2頁:https://ogy.de/7ags [2025年7月2日閲覧]

[ii]       2012年、OECDはトルコにDAC加盟を提案した。Tüyloğlu 2021、第3号、25頁

[iii]      Mengüaslan, Hikmet 2023: Turkish Aid Allocation in Turbulent Times: Changes and Continuities in Turkish Aid Modality(激動の時代におけるトルコの援助配分:トルコの援助様式における変化と継続性「仮訳」)アンカラ・ハジ・バイラム・ヴェリ大学、2023年10月、135-160頁、ここでは147頁、https://ogy.de/c3oh [2025年7月2日閲覧]

[iv]      同上、147 頁。Devecioğlu, Kaan 2024: Türkiye’s Vision for Africa: Humanitarian Diplomacy and Development Cooperation(アフリカに対するトルコのビジョン――人道外交と開発協力「仮訳」)Insight Turkey(インサイトターキー)夏号 第26巻3、トルコの政治経済社会研究財団(SETA)2024年10月9日発行:https://ogy.de/k1vu [2025年7月2日閲覧]

[v]       1923年にケマル・アタテュルクによってトルコ共和国が設立された後、国家および社会のエリートたちは、ヨーロッパとの文化的つながりを求め、1952年からは西側のNATO同盟への加盟を模索した。ケマル主義(ケマリズム)は、オスマン帝国の遺産からの脱却、公の場からの宗教の排除、憲法上の原則としての政教分離の導入を主張した。1996年、ネジメッティン・エルバカンがムスリム同胞団というイデオロギー的背景を持つイスラム主義者として初めて首相に選出された。AKPも、宗教的価値観とオスマン帝国の遺産への回帰を掲げている。

[vi]      Sıradağ, Abdurrahim 2023: Turkey’s Foreign Policy Toward Africa: Three Levels of Analysis(トルコの対アフリカ政策:3段階の分析「仮訳」)Journal of Asian and African Studies (『アジア・アフリカ研究ジャーナル』第6巻第4号)2023年12月7日発行、2257–2270頁: https://ogy.de/7zea [2025年7月2日閲覧]

[vii]      2021年にレジェップ・タイイップ・エルドアンが発表した著書『A Fairer World is Possible』(より公正な世界は可能だ)(原題:Daha Adil Bir Dünya Mümkün)では、国連安全保障理事会の改革が呼びかけられている。

[viii]     Silverman, Reuben 2023: The „Shadow” Foreign Minister Steps into the Light: Hakan Fidan Enters the Cabinet(『影の外相』が表舞台に登場する――ハカン・フィダンの内閣入り「仮訳」)The Türkiye Analyst(トルコの分析)2023年6月14日発行、https://ogy.de/1i8q [2025年7月1日閲覧]

[ix]      Akıllı, Erman / Çelenk, Bengü 2018: TİKA’s Soft Power: Nation Branding in Turkish Foreign Policy(TİKAのソフトパワー――トルコ外交における国家ブランド形成「仮訳」)Insight Turkey(インサイトターキー)第21巻3号トルコの政治経済社会研究財団(SETA)2018年9月12日発行135–151頁、ここでは143頁:https://ogy.de/mvs4 [2025年7月2日閲覧]

[x]       トルコ協力調整庁(TİKA):About Us(組織概要)https://ogy.de/3up8 [2025年7月2日閲覧]

[xi]      TİKA 2022: Development Assistance Report of Türkiye 2021(トルコ共和国開発援助報告書 2021年版)30頁以降: https://ogy.de/lldv [2025年7月2日閲覧]

[xii]      TİKA:TİKA 年次報告書:https://ogy.de/15sk [2025年7月2日閲覧]

[xiii]     2007年に設立されたユヌス・エムレ研究所は、アナトリアの詩人であり神秘主義者でもある人物にちなんで名付けられ、世界中に50以上の拠点を展開している。ドイツ語圏では、ベルリン、ケルン、ウィーンに研究所がある。

[xiv]     2010年に創設された在外トルコ人および家族コミュニティ庁(Yurtdışı Türkler ve Akraba Topluluklar Başkanlığı、YTB)は、宗教庁であるディヤーナトと並んで、トルコディアスポラ政策の最も重要な機関であり、トルコ大統領の管轄下にある。YTBは、ほぼすべてのヨーロッパ諸国に代表者を置き緊密なネットワークを維持している。

[xv]      災害緊急事態対策庁(Afet ve Acil Durum Yönetimi Başkanlığı、AFAD)は、トルコ全土81 州に地域緊急援助・災害対策事務所を設置しており、シリアなどにおける国際的な人道支援活動も担っている。同庁は内務省に所属している。

[xvi]     Alaranta, Toni 2020: Turkey in Afrika. Chasing markets and power with a neo-ottoman rhetoric(アフリカにおけるトルコ――ネオ・オスマン主義的レトリックを用いた市場と権力の追求「仮訳」)FIIA Briefing Paper (フィンランド国際問題研究所政策ブリーフ)第280号2020年4月発行3頁: https://ogy.de/80cy [2025年7月2日閲覧]

[xvii]     Sıradağ(2023年)第9号、8頁

[xviii]    同上、10 頁

[xix]     Devecioğlu (2024年)第7号、139頁

[xx]      AKP 政権下では、イスラム諸国への人道支援が比例的に増加する一方で、経済援助は主として貿易相手国に対して供与される傾向が強まった。Kavakli, Kerim Can 2018: Domestic Politics and the Motives of Emerging Donors: Evidence from Turkish Foreign Aid(新興ドナーの動機と国内政治――トルコの対外援助を事例として「仮訳」)Political Research Quarterly 第71巻第3号(2018年1月19日発行)614–627頁:https://ogy.de/vpwz [2025年7月2日閲覧]

[xxi]     Diyanet İşleri Başkanlığı(宗教庁DIB またはディヤーナト)は、国家機関として、宗務を所管する大統領府の管轄下に直接置かれている。同庁は140ヵ国以上でトルコ国家運営のモスクを管理・運営するとともに、宗教的・歴史的遺産の修復を行っている。また、大使館および領事館に宗務参事官(müşavir)やアタッシェを派遣している。さらに、とりわけ中央アジアのテュルク系諸国(アゼルバイジャン、トルクメニスタン、カザフスタン、ウズベキスタン)において、イスラム文化政策を展開している。

[xxii]     欧州議会 2010:Controversial aims of the IHH organisation, Question for written answer E-010094/2010 to the Commission. Rule 117(IHH組織の物議を醸す目的について ― 欧州委員会に対する書面質問 E-010094/2010(規則117号)「仮訳」)、2010年11月18日https://ogy.de/r09j [2025年7月2日閲覧]。 Institute for NGO Research (NGO研究機関)2025年:トルコのIHH(Insani Yardim Vakfi)、2025年3月17日:https://ogy.de/jnw4 [2025年7月2日閲覧]

[xxiii]    Akıllı / Çelenk 2018、第12号

[xxiv]    グローバル外交指数2024では、トルコは中国、米国に次ぎ、世界で3番目に外交活動が活発な国として位置付けられている。Lowy Institute: グローバル外交指数:https://ogy.de/x4gw [2025年7月2日閲覧]

[xxv]     2008年、トルコは国連安全保障理事会非常任理事国に選出されるのに十分な票を獲得した。Tüyloğlu 2021年第3号23頁

[xxvi]    Foreign Economic Relations Board(対外経済関係委員会)2025: Türkiye – Africa Business Councils(トルコ・アフリカビジネス協議会): https://ogy.de/j3vl [2025年7月2日閲覧].

[xxvii]    Laessing, Ulf 2024: トルコ – アフリカの新たな大国、ドイツ連邦軍予備役協会機関誌「Loyal」2024年5月24日号38-41 頁:https://ogy.de/eeuc [2025年7月2日閲覧]

[xxviii]   Yeni Şafak 2025: Turkish Airlines aims to integrate Africa with world(トルコ航空-アフリカと世界を結ぶ戦略「仮訳」)2025年3月12日:https://ogy.de/72bu [2025年7月23日閲覧]

[xxix]    Yaşar, Nebahat Tanrıverdi 2025: A relational approach to Turkey’s security engagement with African states(アフリカ諸国に対するトルコの安全保障関与に関する関係論的アプローチ「仮訳」), European Journal of International Security(欧州のグローバルセキュリティに関する雑誌)2025年3月19日発行 1–19頁、ここでは11頁: https://ogy.de/mih2 [2025年7月2日閲覧]

[xxx]     Dhaysane, Mohammed 2021: Istanbul‘ a common female name in Somalia as Turkish influence gains momentum(トルコの影響力が強まる中、ソマリアで『イスタンブール』という女性名が広がる「仮訳」)Anadolu Ajansı, 2021年12月24日:https://bit.ly/40WaQMP [2025年7月2日閲覧]

[xxxi]    The Economist (ザ・エコノミスト誌)2025: Turkey is building a spaceport in Somalia(トルコ、ソマリアに宇宙港を建設「仮訳」)2025年2月6日:https://ogy.de/b0t6 [2025年7月2日閲覧]

[xxxii]    Bojang Jnr, Sheriff 2025: Why Somalia’s oil deal with Turkiye is facing growing backlash(ソマリアとトルコの石油取引に強まる反発の背景「仮訳」)The Africa Report(アフリカレポート)2025年4月24日: https://ogy.de/e7un [2025年7月2日閲覧]

[xxxiii]   Altunışık, Meliha Benli 2022: Humanitarian diplomacy as Turkey’s national role conception and performance: evidence from Somalia and Afghanistan(トルコの国家的役割認識およびその実践としての人道外交:ソマリアとアフガニスタンの事例を検証する「仮訳」)Southeast European and Black Sea Studie(東南ヨーロッパ・黒海研究)第23巻3号、2022年10月7日、657-673 頁、ここでは 665-666 頁: https://ogy.de/q6l0 [2025年7月2日閲覧]

[xxxiv]   Publish What You Fund(パブリッシュ・ワット・ユー・ファンド): Aid Transparency Index (援助の透明性インデックス)2022年:https://ogy.de/c2e4 [2025年7月23日閲覧]

[xxxv]    ドイツ連邦議会第20期調査委員会は、数多くの問題として、特に現地での受容性の欠如、援助依存の助長、目標の一貫性の欠如を指摘している。(ドイツ連邦議会 2025年『調査委員会報告書-アフガニスタンから得られる、今後のドイツの統合的関与に向けた教訓』2025年3月21日、https://ogy.de/jd6r [2025年7月24日閲覧]

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