アセットパブリッシャー

イベントの報告

KAS日独経済政策対話

「コロナ禍の長期化を踏まえた経済政策:日本とドイツ/EUによる戦略を巡る比較的視点」

KAS日独経済政策対話は、経済政策に関するオープンな交流の場を提供することを目的としている。日本とドイツ・EUの政策立案者や経済団体の代表者など経済政策における重要な関係者を定期的に招き、両国経済における課題や展望について率直に話し合い、相互理解を深め、政策立案の質を高めるものである。 2月10日のイベントには登壇者として、ドイツと日本の二大経済団体であるドイツ産業連盟(BDI)と日本経済団体連合会(経団連)の代表者、欧州議会議員、日本の経済産業省の幹部が名を連ねた。登壇者は両国の課題や展望について率直に議論するとともに、両国およびそれぞれの政策立案への理解を深めることに貢献した。

アセットパブリッシャー

経団連常務理事の原一郎氏は、日本が今やコロナ禍による経済的悪影響から回復しつつあるにもかかわらず、日本経済の投資魅力が失われていることを強調した。コロナ禍の間、日本は近年の歴史の中で最も孤立した状態となった。その主な原因は、日本政府の厳しい水際対策がサプライチェーン上の大きな問題を引き起こしたことにある。

 

原氏は、少子高齢化も踏まえ、デジタル化や行政改革の推進、およびテレワークなど新たな働き方を通じた労働生産性の向上に向けて、官民一体となった取り組みを強化することの重要性を強調した。岸田首相が発表した「新しい資本主義」のロードマップでは社会の分断や格差の克服に関して重要な戦略的目標が掲げられており、これも重要な前向きな一歩と評された。

 

インド太平洋地域における現在の地政学的混乱にもかかわらず、原氏は、地域的な包括的経済連携(RCEP)が貿易および投資の拡大や、効率的で強靭なサプライチェーンの構築に貢献できると主張した。これらはすべて、自由で開かれた国際経済秩序の実現にとって大きな意義を持つ。

 

欧州議会経済金融委員会委員兼対日交流議員団のシュテファン・ベルガー議員は、日本とドイツがともに社会の変革とルールに基づく国際秩序を目指しており、両国が人権、民主主義、法の支配を守るリーダーであることを強調した。

 

ドイツも欧州も、経済を活性化する手段としてデジタル化を加速させる必要がある。この分野における日本との協力にとって重要なステップとなったのは、2019年に行われた日EU間の十分性相互認定によって世界最大の安全なデータ流通地域ができたことである。しかし、デジタル化における日EU間のパートナーシップを、二国間と多国間の両方で拡大させる必要がある。

 

コロナ禍の悪影響を克服する上で特に重要なツールは、6億人以上の人口を有し世界の国内総生産のほぼ3分の1を占める日EU自由貿易圏を創出した日EU間の自由貿易協定(JEFTA)である。JEFTAは、日欧双方の企業にとって年間数十億ユーロの関税削減につながった。

 

ドイツ産業連盟(BDI)執行委員会委員であるヴォルフガング・ニーダーマーク氏も、ドイツと日本の経済には大きな類似性があると指摘した。ドイツの輸出統計(本イベントの前日に発表)は、ドイツ経済がコロナ禍の悪影響を克服しつつあることを示すものだった。しかし同氏は、貿易や投資、サプライチェーンの面で、特にEUとその他の地域(具体的にはアジア)との経済的相互依存関係について、コロナ禍から重要な教訓を引き出す機会を逃してはならないと主張した。

 

デジタル化は極めて重要である。そのため、BDIは日本のSociety 5.0のコンセプトを、経済や社会の様々なレベルでデジタル化を拡大する必要性として注視している。こうした必要性はすべて、特にコロナ禍の発生以降、ドイツ経済に顕著に現れている。

 

特にエネルギーの転換に関しては、サプライチェーンの新たな再設計が必要である。ニーダーマーク氏は、EUと日本だけでなく、他のインド太平洋諸国、さらにはアフリカや南米諸国との間で協力を深化させる大きな可能性があるとする一方、気候保護の必要性を強調した。同氏は、ドイツと日本の企業が水素サプライチェーンの多くの分野で技術先進国としての地位を確立していることを指摘した。また、両国におけるこの分野での強力な官民協力を提唱した。

 

経済産業省の石川浩経済産業政策局産業構造課長は、日本政府にとって、経済のニーズと必要な新型コロナウイルス感染症対策の調整とのバランスをとるのは難しいことだったと主張した。主な優先事項は、失業者を増やさないことと、経済的弱者に打撃を与えないことであった。

 

ドイツと日本の経済には多くの類似点があり、例えば自動車産業など同種の産業が中心的な役割を果たしている。そのため、両国は似たような課題に直面している。これは、2050年までのカーボンニュートラルといった野心的な目標の達成において特に当てはまり、この目標を実現するには日独両国における官民協力が不可欠となる。グリーン水素のような再生可能エネルギーは短期的な利益を生み出すのが難しいため、なおさらである。

 

岸田内閣の主要戦略の1つは、地域経済を活性化し、遠隔教育や遠隔医療といった様々な分野でデジタルインフラを整備することである。

 

富士通株式会社チーフポリシーエコノミストのマルティン・シュルツ氏がディスカッションのモデレーターを務め、登壇者に次の内容について質問を投げかけた。(1)グリーン投資を当面の日独協力の一分野とする可能性、(2)インド太平洋地域の厳しい地政学的状況を背景とする、日本企業の欧州市場への関心の高まり、(3)ドイツと日本の双方にとってのデジタル化、イノベーション、アフリカや東南アジアの新興市場の重要性。

 

コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(KAS)日本事務所代表のラベア・ブラウアーは冒頭挨拶で「KAS日独経済政策対話」シリーズの緊急性について述べ、このシリーズでは現代の課題を克服するために日独の産業界や企業がより密接に協力することを目指していると説明した。

 

本イベントの参加者には、セッションの前とセッション中に質問をする機会が与えられた。

イベントの動画はこちら

シェア

アセットパブリッシャー

担当者

イエルン・ コ-ルス

Jeroen Kohls bild

シニアリサーチャー

jeroen.kohls@kas.de +81 3 6426 5041

comment-portlet

アセットパブリッシャー

アセットパブリッシャー