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イベントの報告

デジタル化

ビジネスにテクノロジーを導入するための時間・コスト・人事管理

パンデミック以後の世界において、ビジネスにおけるデジタル化は不可欠なものとなった。中小企業(SME)にとって、日々の業務に加え、入手可能な数多くのデジタル・ツールを試し、操作することは途方もない作業となり得る。ウェビナー「ビジネスにテクノロジーを導入するための時間・コスト・人事管理」では、アジア7カ国・140社の女性経営中小企業(WSME)から得られた貴重な知見や教訓を取り上げるとともに、成功した起業家やデジタル化の専門家によるパネルディスカッションを実施した。ウェビナーは2021年10月28日(木)17:00 – 18:30(日本時間)に開催され、英語、ベトナム語、ビルマ語への通訳が行われた。

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コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(KAS)日本事務所アジア経済政策プログラム(SOPAS)シニアプログラムマネージャーのクリスティタ・マリー・ペレズが冒頭挨拶を行い、デジタル化がWSMEに及ぼす影響に関するKASとWoomentumによる共同研究プロジェクトについて紹介した。昨年に第一弾の国別研究が実施され、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマーに焦点が当てられた。これらの比較研究から、WSMEがどのように新たなテクノロジーを活用して事業を拡大させたかが明らかになった。研究ではまた、資金調達へのアクセス、メンタリング、ビジネスプロセスの改善、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽減と管理を巡るWSMEの課題についても概説した。今年は研究対象を拡大し、シンガポール、韓国、ベトナムの3カ国が追加された。研究からは共通のテーマが浮かび上がった。パンデミックによりWSMEのデジタル化は加速したが、これらのプロセスは場当たり的に変更され、基本的な指針となるデジタル化に向けた明確なロードマップはなかった。WSMEはデジタル化から多大な恩恵を受けてきたものの、その大半にはこのような変革を起こし、これらの恩恵を維持するための一連の体系的なプロセスが欠けている。

 

冒頭挨拶に続いてパネルディスカッションが行われ、Innolab Asiaのフィン・コン・タン氏が司会を務めた。パネリストとして、Business Startup Support Centerのジエウ・ハン・グエンCEO(ベトナムの専門家スピーカー)、Van Dat Co., Ltdのラー・ヒエウ・フエ社長(ベトナムの起業家スピーカー)とOTRAのデューク・イ(イ・ウォンドク)社長(韓国の専門家スピーカー)が参加した。

 

パネルディスカッションのハイライトは以下のとおりである。

 

研究参加者の大半は、市場にある全ての選択肢を試し、理解した上で事業にとって何が適切なのかを把握することは途方もない、時間のかかる作業となり得ると指摘した。このことは、経営者と社員が自身のテクノロジー・スキルに自信がない場合に特に課題となる。パネリストは、どのデジタル・ツールがビジネスの変革に適切かを特定するために経営者が取り得るアプローチについて議論した。検討すべき重要な要素として、以下の2点が挙げられる。(1)デジタル・トランスフォーメーションの目的を明確化し、主要なステークホルダー(すなわち、経営陣、従業員、主要チーム)に対して透明性を持たせることと、(2)必要な時間とコストを評価することである。

 

SME向け市場では多くの手頃な価格のデジタル・ツールを入手できるが、事業が成長するにつれて業務をより効率化するデジタル・ソリューションの統合や導入が必要になると、やはり初期費用が大きな障壁となり得る。経営者は特定のビジネスプロセスのデジタル化に伴う利益がコストを上回るか否かを判断しなければならない。長期的な視点からデジタル化の想定される利益を評価することは、個別のデジタル・ツールの費用便益構造を評価する上で重要な基準となる。そのため、企業はデジタル化の明確な目的を設定すべきである。個別のデジタル・ツールのコスト構造には複数の対処方法がある。多額の初期費用を支払う企業もあれば、「ペイ・アズ・ユー・ゴー(利用分だけ支払う)」プランを選択する企業もある。自社でコストを賄う企業もあれば、借り入れに頼る企業もある。いずれもコストに対処する有効な手段である。重要なことは、サービス・プロバイダーとの間で条件とソリューションについて交渉することである。

 

WSMEの研究参加者は、事業にデジタル・ツールを導入する上で一番の課題となるのは、社員が利用してくれるか否であると述べた。従業員からの反発は、アーリーアダプターを特定し、その影響力を利用して消極的な社員に新たなテクノロジーを受け入れるよう促すことで対処できる。その他のインセンティブとして、言葉に出して褒めることや金銭的な利益を与えることも挙げられる。また、経営幹部がデジタル・トランスフォーメーションに関与・コミットして、社内で率先垂範となれるようにすることも重要である。

デジタル・トランスフォーメーションの実現にふさわしい人材を探す上で、SMEが従業員を支える環境を整えることで、社内における新たなデジタル人材の育成を促進する役割を果たせることをパネリストは示唆した。デジタル化の目標や実現方法は各企業によって異なるため、この方が新たに社外で人材を探すよりも効果的な可能性がある。

 

参加者からの質問は、主としてデジタル化プロセスに必要な時間と機会費用のバランスをどのように取るかということであった。パネリストは以下のように助言した。デジタル化プロセスの最初に明確な目標と目的を設定する必要があり、これらの目標と目的を導入プロセスにおけるコミットメントと一貫性によって補完すべきである。導入プロセスを複数の段階に分割することも、トランスフォーメーションをより管理しやすく、費用対効果の高いものとする助けとなる。どのデジタル・ツールを採用するべきかについての選択は、事業のニーズと優先事項による。「どのような場合にも通用するような」ソリューションはない。最後に、パネリスト全員が、デジタル・トランスフォーメーション・プロセスにおいて最も対応困難な要素として人材、すなわち人的資源を挙げた。これは、社員に影響を与える上で対処すべき様々な側面があることや、事業の「骨格」としての人的資源の重要性が高まりつつあることが原因である。チェンジマネジメントプロセスの開始時に共通の基盤を確立する必要があり、小さな改革から進めることがプロセスにとって良いスタートとなる可能性がある。

 

ムーナ・アウリ氏がウェビナーの締めくくりの挨拶を行い、次回シリーズや2021年12月に予定されている『成功への道 第2巻(The Path to Success Volume II)』の刊行記念ウェビナーへの参加を呼びかけた。

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担当者

ペレズ・ クリスティタ・マリー

Cristita Marie Perez KAS

シニアプログラムマネージャー、アジア経済政策プログラム (SOPAS)

cristita.perez@kas.de +81 3 6426 5041

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