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イベントの報告

日本の女性

新しい社会像を求めて

KAS日本事務所 は「日本の女性」と題した一連のイベントやウェビナーを開催し、現在の日本のジェンダー状況の動向を探ります。シリーズ第2回目は、「日本の女性:新しい社会像を求めて」と題して2022年4月4日開催されました。このウェビナーの目的は、ジェンダー分野で成功している北欧諸国(ノルウェー)がどのようにして現在のジェンダー状況を実現したかを学び、日本の現状と比較することで、日本社会のジェンダー状況を変えるための政策提言を行いました。

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ラベア・ブラウアー(コンラート・アデナウアー・財団日本事務所代表)より冒頭、モデレーターの菅野志桜里 国際人道プラットフォーム(IHP)代表理事(弁護士/元衆議院議員)、水無田気流國學院大學教授、グロ・クリステンセン ノルウェー科学技術大学教授を紹介。昨年12月の第1回ウェビナーを振り返りつつ、日本のジェンダー状況、女性を取り巻く環境が旧態依然としているという問題意識とその改善が本ウェビナー・シリーズの根底的な目的である旨説明。今回、社会的側面から日本とジェンダー先進国であるノルウェーを比較し、同国のベストプラクティスが日本の政策立案者、企業リーダーの役に立つような議論にしたいと期待感を表明。

モデレーターの菅野志桜里IHP代表理事より、前回のウェビナーにおいてコロナ禍での女性の状況、働き方の柔軟性が女性を後押しする一方で、格差のしわ寄せが非正規雇用者の女性を苦しめているという現状について指摘があったことに言及。待機児童改善・保育園整備や政治分野における男女共同参画を進める取り組みを自身が国会議員として取り組んできたことを説明し、ノルウェーの事例を日本の参考とし、議論を深めたいとした。

 

【基調発言】

水無田教授より、歴史的・文化的にジェンダー・モデルがどのように作られてきたのかについて言及。その要約は以下の通り。

江戸時代には、「婦人は人に従うもの」という考え(婦徳)があった。明治維新後、女性は嫁いで、嫁となり、妻となり、隠居となるのがライフステージで、この時の主婦は日常的な食べ物等の管理に代表されるような家に関する管理や調整が役割で、必ずしも家事育児が役割でなかったと説明。その後、「良妻賢母」という言葉が生まれ「賢い」という言葉が初めて女性に対して使われた。他方、同時期に民法の家制度確立による妻の無能力化がなされたこと、これが戦後改正され女性の参政権も広がったが、制度的に改善は進んだはずであるが文化的、社会的ブレーキがかかっている旨を述べた。

第2次世界大戦後、求められ女性像が夫を「母のように甘えさせる妻」と変化したことについて、これは男女関係を母子関係に捉え直し、戦前の家制度の男性優位の構図を継続させるものであったと説明。その一方で、産業構造が第2次産業中心と移り変わることで、性別分業を可能とする収入環境が進み、核家族化による三世代同居からの女性が解放、専業主婦の大衆化という女性側のメリットが享受されるようになった社会の構造変化を説明。

しかし、1980年代から共働き世帯が急激に増え、産業構成比の変化や男性の賃金水準、昇給ベースの鈍化等によって、共働きでないと若年層ほど家計維持が困難になったこと、第3次産業サービス、医療、福祉の広がりによって女性が就業する場が増えていること、相対的な女性の高学歴化等で共働き世帯の方が増えている背景を説明。しかしその内実は圧倒的にパート主婦で、フルタイムワーカーの女性は増加せず、家事、育児を引き続き担うために有償労働と無償労働の二重負担がますます増えているとした。また、女性が意思決定の現場にいないこと、それには統計的差別の問題がひとつ大きく指摘されていると述べた。男性賃金プレミアム(男性が男性であるだけで女性よりも割増賃金を払う)、また制度的惰性(社会の制度があまりに高度な安定性を持ち、大きな問題があっても合理的な問題解決が図れない状態)、過去20年女性就業率が上昇したにも関わらず、家事負担割合は変わっておらず、そして(旧来からの)ジェンダー規範や慣行が根強いまま、(女性が)就業しているという現実を指摘。

アベノミクスの女性活躍は、現状のジェンダー規範や女性の担っている負担、男性の生活スタイルや就業の在り方を変えないまま、社会の問題に対して女性を充てて欲しいとする点を問題視。加えて、政府が思い描く女性のライフコースを完璧にこなすことは非現実的で、女性活躍推進法は日本女性超人化計画と断じた。

論点として農業社会から工業社会への短期間での変化、高速近代化による歪みでしわ寄せが女性に生じたことや無意識の偏見、変革コストの高い社会であること、同調圧力が強く、個人の自由に不寛容であり、家族責任型社会が大きい事などを指摘。経済成長を眼目とした女性活躍政策は課題山積であるが、こういった論点が顧みられることはなく、今後どうするべきかと提起した。

クリステンセン教授より、ノルウェーは、ジェンダー平等のパイオニアと目される国で、歴史的に見ても、女性が労働市場に参画することで経済的自立が確保、強化させてきたこと、またノルウェーでは男性の家事や育児の参加をジェンダー平等の観点から進め、共働き、共同家事のモデルと作ろうという、国の全体的な説明を行った。

具体的な施策として、女性差別からの保護、同一労働・同一賃金、ジェンダー・クオータ、家族政策等に言及。(例:育児休暇は9週間に及び給与の80%を保証、父母で分割可能な育児休暇制度、5歳で幼稚園に子供を入れることが出来る保証制度)他方で、女性の方がパートナーのキャリア、家族のニーズを支える立場にあるとし、女性の非正規労働者は男性より多く、労働市場において男女間格差があり、実際には女性の方が家事の多くを担っているとした。そして近年移民メイドが増えており、これが社会的ヒエラルキーを生んでいないかという疑問を生じさせると共に、移民メイドはジェンダー平等に関して夫と妻で本来分かち合う家事を移民メイドが担うことでその夫婦間の家庭生活がしやすくなるという実態があると指摘した。これらの解決に向けて、様々なアクターがよりジェンダー・バランスを強化すること、それによって平等を達成する必要性、民主的な考え方に基づき、労働法等で妥協なく進めることが重要であるとした。

 

【パネル・ディスカッション】

「日本における制度的惰性のような事例の打破にノルウェーではどういったことが契機となったか」というモデレーターからの問いに対し、クリステンセン教授は、日本は少子高齢化の結果、労働力の需要が高まり女性が参入する可能性があるとした上で、その際の福利厚生と同一労働・同一賃金の法的実施が重要であるとした。

これに対し水無田教授は、昨年の五輪に垣間見た社会の変化への胎動、外国人留学生への理不尽なビザ制度を引き合いにしつつ、これらが誰しも関わりあるにもかかわらずジェンダー平等は相対的に価値が低いとみられており、政治家もこれを切実な問題として訴えていくべきであると論じた。他方で、菅野IHP代表理事が衆議院議員として「保育所落ちた。日本死ね」問題を国会で取り上げた時に、それまでとは異なり政治部の記者がこの問題を取り上げたこと自体が変化であったと述べた。

クリステンセン教授より、ノルウェーでは1970年代にウーマンズ・リブが始まり、これをきっかけに社会的なものとなり、これが女性の権利、人工妊娠中絶、保育権利、社会的、政治・経済的権利と広がり、現在ではジェンダー平等に向けた国民的コンセンサスがある旨説明。政治家としてジェンダー平等を支える姿勢がないと当選も出来ないと付言した。

また、移民メイドを巡る人道的見地、国家間の公正について、クリステンセン教授はジェンダー平等のソリューションとして移民労働を使うべきでないとした上で、移民メイドは家事労働代替担い手になるが、この家事労働者に対するサポート、まだ法整備されていないこと、逆に女性が家事労働を担うという点は変わっておらず、そのステレオタイプを強化されてしまうのではないかと懸念を表明。

これに関連し水無田教授は日本では家事は要求水準が高く、食卓中心的であること、そして家庭自体が閉鎖的であるとした上で、よその人たちを身内に入れ、家事労働してもらうことに抵抗感があるが、日本でも1960年代初頭まではお手伝いが家にいることは珍しいことではなく、専業主婦化の過程で忘れ去られたとした。他方、日本では文化的、社会的変化はドラスティックに起きることがあり、周りがやれば、我先に模倣する国民性があると言及。

「ノルウェーにもまだ性別役割分業の感覚が残っているのか」という点について、クリステンセン教授から産業別就業者数の男女比について説明あり、ジェンダー・バランスを図るための努力が払われているとした。家庭については、男性が子供と15週間まで家にいることを義務付けるパパ・クオータが有効であった旨説明。

 

【質疑応答】

「日本で増加する自殺者の問題」について水無田教授より、コロナ禍で女性の二重負担が増えていることや非正規雇用が多いこと、そして意思決定の場にいないことの問題点について言及し、危機感を持つべきであると力説。

ノルウェーにおけるコロナ禍の影響について、クリステンセン教授より同様に女性の家事・育児負担が増大しているため、早急な対応が必要であると説明。

「女性首相が果たす役割」について、クリステンセン教授よりノルウェーでは既に1980年代から女性首相がおり、女性首相の存在が政治の場でも、社会でもジェンダー・バランスをキープする象徴になっているとした。水無田教授より、オールド・ボーイズ・スクールのサロンの中に入った人たちから役職が決まっていくという日本の持ち回り政治の中で、女性が首相になる、それどころか閣僚になることも難しく、政策決定、意思決定における制度的惰性が非常に強いと説明。

 

【結語】

菅野IHP代表理事より、ノルウェーでは70年代にウーマンズ・リブ、80年代に女性首相が誕生して、最近までも女性首相であったということであったこと、その反面、日本は女性政治家が増えない、ましてや女性首相が現実味を帯びないこと、それでもこうした国際的な対話を通じて、日本の状況の改善が図られることへの期待感を表明し、パネリスト、オーディエンスに謝辞を述べて結びとした。

 

   日本プログラム シニアプログラムマネジャー 瀧口直輝
日本プログラム プログラムアシスタント 吉田あかり

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担当者

瀧口 直輝

Naoki Takiguchi

シニアプログラムマネージャー、日本プログラム

naoki.takiguchi@kas.de +81 3 6426 5061

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