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イベントの報告

WSMEのデジタル化への道

ベトナム、シンガポール、韓国における政策のブレークスルー

デジタル化が必須となっている今日のビジネス環境において、経営者はデジタルエコノミーの一翼を担うべく、関連性を維持するために備えられている必要があります。特に、女性が経営する中小企業(WSME)は、デジタル時代に繁栄することだけではなく、成長もしたいと考えています。しかし、WSMEの眠っている潜在能力を引き出すことができる包括的なデジタル化のアジェンダを設定するためには、政策立案者や民間のステークホルダーからの支援が必要です。そのような背景の中、WoomentumとLee Kuan Yew School of Public Policyの協力で開催されたウェビナー「WSMEのデジタル化への道-ベトナム、シンガポール、韓国における政策のブレークスルー」では、ベトナム、韓国、シンガポールの政策専門家たちが自国のデジタル化政策のブレークスルーと知識について共有し、さらにはWSMEのためのデジタル化への道作りに必要な次のステップについて議論しました。このウェビナーは2021年12月14日(火)17:00(日本時間)に開催されました。

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デジタルトランスフォーメーション政策万能薬はない

2021年12月14日、Woomentumとコンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(KAS)日本事務所は、ベトナム、韓国、シンガポールのケーススタディが掲載された「成功への道:デジタル化時代における女性経営企業の変革のあり方」第2巻の出版を祝った。この出版物が発表されたのは、KAS日本事務所のラベア・ブラウアーがモデレーターを務め、アジア財団のクワン・キム、ベトナム計画投資省のグエン・ティ・ル・クエン氏、リー・クアンユー公共政策大学院(NUS)のルーベン・ンー博士がパネリストとして参加したウェビナーである。

このウェビナーでは、パネリストがこのレポートの調査結果を参照しながら、アジアにおけるデジタルトランスフォーメーション政策の立案と実施の経験から得られた知見を共有した。このイベントは、3人のパネリスト全員への次のような質問で幕を開けた。「女性経営中小企業(WSME)のデジタル化を促す環境づくりにおける政策立案者の役割は何か」、「デジタルトランスフォーメーションのための根本的なニーズは何か」。

クエン氏は、今日でもデジタル化は特に注目を集めていて、成長を促進すると認識されているものの、中小企業にはまだリソース、特に資金が不足していることを紹介した。2021年初め以降、ベトナム政府は少なくとも10万社の企業を対象にデジタルトランスフォーメーション・プログラムを開始している。このプログラムは、デジタル化の意識と能力の向上を図るとともに、資金的、技術的支援を提供するものである。ルーベン博士は、新型コロナウイルス感染症によってデジタル化が「必須」であることが証明されたため、我々は皆、これをきっかけにこの波に乗らなければならないと指摘し、次のように付け加えた。「これらの解決策のいくつかを考えるとき、我々の視野が狭くなっている場合がある。(中略)そのため、デジタル化だけを考えるのではなく、サステナビリティのメッセージを取り込むべきだ。つまりこれは、デジタル化だけでなく、デジタル化と持続可能なビジネスを両立させることである」。

 

全国的なデジタル化ロードマップ

「政策は大雑把なツールだが、その実施は大雑把であってはならない。できるだけ正確でなければならない」と、ルーベン博士はパネルディスカッションの冒頭で述べた。シンガポールのデジタルトランスフォーメーションのストーリーにおける重要な教訓の1つは、中小企業にはかなりの多様性があるということであった。画一的なアプローチを避けるため、ルーベン博士は中小企業のデジタル化ステージにおける成熟度を特定するためのスクリーニング・ツールを推奨している。このスクリーニングは、すべての関係者が中小企業の立ち位置を把握するのに役立ち、その後、より正確な実施のために適切な提言が与えられるかもしれない。シンガポールが取り組んでいる次のフロンティアは銀行業務である。従来型の銀行は現在、どうすればデジタルバンキングとの差別化を図れるかを再考している。銀行は中小企業団体と協力し、中小企業に的を絞ったアプローチを有するソリューションを共同開発することができる。

ルーベン博士はさらに、デジタル化政策ではさらなるニュアンスを考慮しなければならないと強調した。技術的ニーズは氷山の一角に過ぎない。氷山の下には、文化的理由など、デジタルトランスフォーメーションに反対するより根深い障壁があるのかもしれない。クエン氏はこの点を引き継いで、多くの潜在的な要因が存在することがよくあると強調した。ベトナムの多くの中小企業にはいまだに標準化された手順がないため、意識と知識の向上が必要である。新たなデジタルトランスフォーメーション・プログラムで、政府は様々な中小企業向けに、デジタルパッケージを通じてそれぞれのニーズに基づいたトレーニング活動やソリューションマッチングを提供する。中小企業が自ら選択できるように、サービスプロバイダーの見直しも予定されている。

調査によると、韓国のWSMEの間ではクラウドファンディングが盛り上がっている。クワン氏によると、韓国のデジタル金融環境は非常にエキサイティングだが、P2P(ピアツーピア)ファイナンスを除いて今のところ具体的なものは何もない。2019年に、韓国政府はP2Pファイナンスに関する世界初の法律を制定し、ルールの明確化と手続きの標準化を実現した。クワン氏によれば、「資金調達の方法と女性起業家との共有を民主化しているという点で、これは韓国の女性起業家の資金アクセスを改善する上で重要な役割を果たした」。このような革新的なデジタル金融ソリューションは、女性やその他の不利な立場にある人々に対する差別問題や構造的問題を克服するために利用することができる。しかし、これだけクラウドファンディングが盛り上がっている国でも、その認知度はまだ低い。アジア財団が行った調査では、クラウドファンディングを資金源として検討したことがあると答えた中小企業は7社中2社に過ぎなかった。

 

労働者のデジタルリテラシーの向上

クワン氏は、「これは全世界に当てはまることだが、韓国の中小企業を取り巻く環境は比較的厳しい」と指摘した。韓国は経済協力開発機構(OECD)の中でも中小企業と大企業の賃金格差が最も大きい国の1つであり、中小企業が若い人材を集めるのに苦労していることが伺える。韓国政府によるデジタル・ニューディールはこうした問題に対処しようとするもので、韓国の中小企業のデジタルイノベーションを促進し、人材への投資を増やすために導入された。これは、中小企業と若い人材のジョブマッチングを促進し、新たな人材にデジタルトレーニングを提供し、デジタル時代に適応する職業訓練システムを再構築するものである。中高年労働者や中小企業を中心に、最大18万人を対象にしている。

クエン氏も、トレーニングはベトナム政府のデジタルトランスフォーメーション・プログラムの重要な柱であると述べた。政府は大学、国際的な専門家、テクノロジー企業など多くの組織と協力し、管理職やIT部門向けのトレーニングプログラムを設計した。このトレーニングは2段階に分かれており、まずは基本レベルのマストレーニングを行い、その後、企業のビジネスプロセスに沿ったより長期的で詳細なプログラムを実施する。

経済が変化し、新たなスキルが必要になって以来、シンガポールはますます実験的なアプローチを取るようになっている。例えば、政府による「スキル・フューチャー」プログラムでは、シンガポール市民や永住権保持者の専門的スキルの向上を目的に、資金援助を行った。現在では、そのアプローチはより企業レベルに移行しつつある。ルーベン博士は、トレーニングと応用との間のギャップが重要な問題の1つであると指摘した。博士は、学んだスキルをいかにしてプロジェクトで実行に移すかについて参加者がアイデアを出し合う「データイノベーション・ラボ」とトレーニングを組み合わせることを推奨している。トレーニングの最後にプロジェクト提案書を作成し、その中で数名のトレーニング受講者をプログラムのトレーナーとして選出する。これにより、これらのトレーニングプログラムを単発的なものに終わらせず、トレーニングの投資収益率(ROI)を高めることもできる。

 

エコシステムの関係者間の連携強化

ベトナムでは毎年、「ベトナム開発パートナーシップ・フォーラム」が開催され、すべての組織が一堂に会して協力の可能性について話し合っている。政府は、ベトナムのデジタルトランスフォーメーションの目標をいかに達成するかについて、国際機関との協議を開始する。これらの機関は、資金援助だけでなく知識や経験も提供し、ベトナムで非常に重要な役割を果たし続けている。

ルーベン博士は、WSMEを対象とした新規および既存の支援プログラムの認知度を高めるために、ビジネスネットワーク、業界団体、インフォーマルなコミュニティと協力する3つのアプローチについて説明している。博士は、実行やコミュニケーションの特定分野において、シンガポールはもっと上手くやれるはずだと指摘した。政策は良好だが、利用率や認知度はまだそれほど高くない。1つ目のアプローチは、セクター別アプローチを採用し、関心や専門分野が異なる人々に上手く働きかけ、様々なチャネルを通じて女性にアプローチすることである。「様々な年齢層の様々な人々にどうアプローチするか。(中略)また、女性起業家の中には、中国女性協会など、それぞれの文化団体で活動している人もいる。商工会議所だけを見ていてはいけない」と博士は述べた。

クワン氏も、関係者間の知識共有の重要性を強調した。「WSMEに影響を与える規制について理解を深め、その知識を共有することが良いスタートとなる」。そして、Woomentumの新たなレポートを、そうした方向への生産的な動きの例として挙げた。しかし、まだやるべきことは多い。韓国は、新たなP2P法など、他国にとって有益になり得るものを数多く共有できるが、韓国で上手くいったことのほとんどは、おそらく他国にとっては適切でないかもしれない。デジタル金融のインフラは、韓国が非常に進んでいる分野であるため、貴重な知識を共有できる分野の1つである。

パネリストの共有できる知識が非常に豊富だったため、ウェビナーは質疑応答の時間をわずか10分ほど残して終了せざるを得なかった。参加者からは実りある質問が出され、議論が深まった。総合的に見て、ベトナム、韓国、シンガポールからの教訓は、アジア全体のWSMEのデジタル化にとって来るべきエキサイティングな新しい未来を示唆するものであった。これらのトピックの詳細については、以下に示すウェビナーの全記録と我々の新たな出版物へのリンクを参照されたい。

 

ウェビナーの記録へのリンク

出版物へのリンク

原文はWoomentumのブログを参照

 

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担当者

ペレズ・ クリスティタ・マリー

Cristita Marie Perez KAS

シニアプログラムマネージャー、アジア経済政策プログラム (SOPAS)

cristita.perez@kas.de +81 3 6426 5041

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