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イベントの報告

日本の女性

現在の役割と期待

KAS日本事務所 は「日本の女性」と題した一連のイベントやウェビナーを開催し、現在の日本のジェンダー状況の動向を探ります。シリーズ第1回目は、「日本の女性:現在の役割と期待」と題して2021年12月3日開催されました。政治、経済、社会の3つの分野の専門家をお招きし、日本のジェンダー現状の概要を把握しました。

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ラベアブラウアー(コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング日本事務所代表)が冒頭、モデレーターの菅野志桜里様、野田聖子大臣をはじめとする登壇者に謝辞を述べた上で、世界から遅れている日本のジェンダー状況に触れ、政治、ビジネス、社会分野にフォーカスしたWomen in Japanシリーズのイントロダクションとなる本イベントの開催意義を強調し、本イベントを開会した。

続いて、菅野志桜里(一般社団法人国際人道プラットフォーム(IHP)代表理事/元衆議院議員) が登壇者紹介および挨拶を行い、本イベントの3つのフォーカス・エリアにおける議論をリードした。それぞれのフォーカス・エリアの概要は以下の通りである。

政治における女性
基調講演: 野田聖子(衆議院議員/内閣府特命担当大臣(男女共同参画) )
日本の議員の男性比率が9割であるが故に女性や子供の問題を自分ごととして捉えることができず、多くのジェンダーに関する争点が見逃されてきたと指摘した。また、国会よりも生活に根差している問題を議論するはずである地方議会における女性の少なさについても問題を提起した。
 

対話: 三浦まり(上智大学法学部教授)・ 野田聖子
国会男性比率9割の影響について、三浦教授も日本におけるハラスメントの法律整備が不十分などの例を示して賛同した。野田大臣から、社会としてジェンダー問題に関する争点は高まっており、永田町でも夫婦共働きが進んでいることもあり、選挙の前面に妻を出したり、妻を秘書扱いしたりするようないわゆる「政治家の妻」が減っている点、女性支援計画に「望まない非婚」などに対する男性支援も今回加わった点が示された。また、地方議員をいかにして増やすことが可能かという点に関して、地方議員の成り手不足に対処するため、男女問わずより参画しやすいよう介護や出産、育休などを議員規則に入れた点を成果としながらも各党から成り手となる女性を擁立していく重要性を述べた。中選挙区か小選挙区という選挙制度が女性候補者にもたらす影響や、「政治は男性のもの」という意識、選択的夫婦別姓への実現に向けた取り組みについても議論がなされた。

 

ビジネスにおける女性
基調講演:浜田敬子(ジャーナリスト/前Business Insider Japan統括編集長)
なぜ日本では女性管理職が増えないのかという問題について、職場(企業)と家庭(社会)両方に原因があると述べた上で、若い男性の価値観は変わっているものの中間管理職層である40代、50代男性の意識が変わらない点や、女性が管理職となる際の「ガラスの天井」ではなく、男性が無意識に持っている飲み会でのネットワーキングなどの「ガラスの下駄」の存在など、女性が管理職になることを躊躇するような構造的な問題があると指摘した。また、リモートワークによって時短勤務からフルタイム勤務に復帰した事例などコロナ禍でもたらされたポジティブな変化についても言及した。

対話:大沢真知子(日本女子大名誉教授)浜田敬子
大沢名誉教授が、日本の女性の離職理由が育児家事ではなく仕事への不満やキャリアへの行き詰まりだという状況、およびコロナ禍による影響として仕事よりも生活を重視する若者が増えたことをデータと共に説明した。これに対し浜田氏が取材を通じて聞く、「両立支援などの『優しさ』ではなく『やりがい』が欲しい」という現場の声を紹介し、大沢名誉教授が提示したデータが実情を裏付けているとした。働き方を変える方法に関する質問に対して、浜田氏が、社会の変化が企業の働き方に影響を与えた事例や、夫を変えることが社会を変える事例、声を上げることが難しい場合の方法として選挙における投票行動の重要性を訴えた。大沢名誉教授からは配偶者控除などの制度が女性の貧困にも繋がるような女性の働き方、生き方を制限しているとして議論の必要性が提起された。


社会における女性
基調講演:水無田気流(詩人/國學院大學経済学部教授)
日本の女性のジェンダー状況が変わらない理由を、ジェンダー不平等が可視化されていないことだと言及した。コロナ禍によって可視化された部分もあると述べ、これはジェンダー問題が一般社会で人権問題として捉えられるようになった表れだとした。また、日本において女性の給料が少ないながらも第二の「大黒柱」として家計を支える役割を果たしていることを指摘し、同時に日本の家事育児に求められる基準が世界最高水準であると問題提起した。
 

対話:上野千鶴子(東京大学名誉教授) ・ 水無田気流
水無田教授の基調講演を受けて、上野名誉教授はコロナ禍によって見える化したジェンダー問題は「ケアと身体」に関するものであると指摘した。そして日本の女性が抱える二重負担の現状を表した「産め 育てよ 働け」という言葉を引用しつつ、ケアのアウトソースの方法として、市場化か公共化という選択肢があるとした。どちらの方法を日本はとるべきかという議論の中で、水無田教授は、国民としては公共化を取りたいけれども政府が市場化に舵を切っていると指摘した。上野名誉教授は、大沢名誉教授が先の議論で指摘していた税制や社会保障システムがそもそも争点となっていないことが問題であると指摘した。

クロス・トーク
社会における女性セッションで上野名誉教授より示されたケアの担い先について議論が行われ、政府が自助に頼っている点が指摘され、税制度の改革の必要性などが改めて確認された。

最後にモデレーターの菅野IHP代表理事が登壇者への謝辞を述べ、本イベントは閉会を迎えた。
 

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担当者

Akari Yoshida

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このシリーズについて

コンラート・アデナウアー財団と財団所有の教育機関、教育センターと国外事務所は、さまざまなテーマについて毎年何千ものイベントを開催しています。その中から選ばれた会議、イベント、シンポジウムについては、直近の特別レポートをwww.kas.deで紹介しています。内容の要約のほか、写真、講演原稿、録画や録音などの付属資料があります。

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