アルジェ、アクラ、アディスアベバをはじめ、今、アフリカ大陸全体で、より強い自主性と自己決定を求める声が上がっている。これまで「アフリカの問題はアフリカ自身が解決する(African solutions for African problems)」というスローガンは、主として紛争への外国の介入を抑制するための主張として用いられてきたが、アフリカ連合(AU)は、これを利用して、アフリカを持続的な繁栄へと導く具体的なプロジェクト、アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)という構想を打ち出した。
大陸レベルの長期戦略である「アジェンダ2063」の中核をなすこの構想では、今後数十年のうちに、ほぼすべてのアフリカ諸国が相互に市場を開放し、財やサービスの円滑な取引を可能にすることが目指されている。実現すれば、世界最大の自由貿易圏となる極めて野心的な試みである。しかし、複合的な危機がある上に、大陸における多国間組織の役割をめぐる長年の調整の難しさを背景に、この自由貿易協定に対して早くも先行きを悲観する声が上がり始めている[i]。では実際に、アフリカ連合が掲げるこの重要なプロジェクトは現在、どのような状況にあるのであろうか。その実施はアフリカ大陸の将来にどのような影響を及ぼし得るのか。そして、その目標を達成するために、どのような取り組みが進められているのだろうか。
保護主義から自由貿易へ
1991年にアフリカ経済共同体(AEC)が設立されて以降、アフリカ連合およびその前身機関(訳注:アフリカ統一機構(OAU)を指す)の各加盟国は、大陸における経済統合の強化に向け、努力を重ねてきた。にもかかわらず、アフリカ大陸は、今なお世界で最も地域統合が遅れている地域とみなされている。事実、経済力のあるアフリカ諸国にとって、域内市場よりも欧州・中東・アジア市場の方が依然として収益性が高く魅力的なのである。
一方で、世界経済におけるアフリカのプレゼンスを高めたいという願望が高まっているのも事実であり、こうした中、2018年、ヨハネスブルクとキガリでの交渉を経て、エリトリアを除くすべての加盟国が、アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)の設立と、域内市場の段階的な相互開放を決定した。これにより、2063年までに、最大で関税の90%が撤廃され、経済交流の活発化によって雇用が創出され、貧困が解消され、アフリカが世界経済の牽引役となることが期待されている。具体的には、アフリカの累積国内総生産は 3兆4,000億米ドルになるまで増加し、2035年までに4,500億米ドル規模の所得増加が見込まれ、最大で3,000万人が極度の貧困から解放される可能性があるとされる[ii]。製造業だけでも、2063年までに1,600万人分の雇用が創出される可能性がある[iii]。要するに、このAfCFTAという巨大なプロジェクトには、数多くの課題を解決する役割が期待されているのである。
自由貿易協定と大陸の経済発展
移動の自由
アフリカ大陸は、今後も当面の間、世界で最も若い人口構成を持つ地域であり続けるだろう。現在の平均年齢は約19歳[iv]、人口増加率は年2.4%に達しており、2050年までに人口は45億人に達すると予測されている[v]。こうした人口動態は、アフリカの経済成長にとって大きな可能性を秘める一方で、同時にリスクも内包している。
アフリカ大陸の中でも経済力のある諸国の人口増加率はそれほど高くなく、今後数十年のうちに中欧諸国と同等のレベルになるだろうと見られている。それなのに、これらの国々からも、教育水準の高い労働力が世界の経済都市へと移住してしまい、母国を離れているという事実は、いわゆる「頭脳流出対頭脳獲得(Brain-Drain-vs.-Brain-Gain)」の議論に照らせば、確かに憂慮すべきことである。しかし、アフリカ域内の労働力移動によってこの憂慮すべき事態が相殺される可能性もある。
欧州連合(EU)の例が示すように、大陸規模の自由貿易圏は、市民の移動の自由が保障されてこそ、より効果的に機能し得る。アフリカ連合(AU)や地域経済共同体は、いまだそれを完全に保障できてはいないものの、東アフリカ共同体(EAC)など一部の地域経済共同体の枠組みの下では、これまで統合が不十分であった大陸を市民により開かれた空間とするための初期的な取り組みが進められている。さらに、2024年初頭にウィリアム・ルト政権下のケニアで世界で初めてビザ取得の義務を全面的に撤廃したことをはじめとするいくつかの取り組みからは、経済的保護主義が根強く残る一方で、反植民地主義的議論を超えた汎アフリカ的な機運が広がりつつあることがうかがえる。ナイロビ、ケープタウン、アクラといった都市にはすでに周辺地域から人材が集まってきており、将来的にアフリカの経済・イノベーション拠点へと発展する兆しを見せている。
もっとも、人の移動の自由がもたらすリスクも無視はできない。残念ながら、アフリカの角、サヘル地域、ギニア湾岸地域では、組織犯罪や民兵組織、テロ組織が依然として人々の日常や政治的議論を支配している。ソマリアでアル・シャバブ民兵が勢力を回復し、自ら「ソマリアの核心地帯」と宣言するケニア、エチオピア、ジブチの一部を含む地域に、武力やテロ攻撃によってカリフ制国家を樹立しようとする動きは、密輸や恐喝によって資金を調達しており、東アフリカ共同体(EAC)が進める域内ビザ免除の取り組みと真正面から衝突している。
安全保障上のリスクとは別に、特に北アフリカの一部の国々では、人の移動の自由に対して懐疑的な見方をする人や反対意見を持つ人が圧倒的に多い。2022年秋および2023年夏にチュニジアの大統領カイス・サイードが行った人種差別的かつ扇動的な発言を契機に、首都チュニスや港湾都市スファックスでは、チュニジア人と移民グループとの間で暴力的な衝突が発生した。2022年には、南アフリカでも同様の現象が見られ、ジンバブエやナイジェリア出身者が、外国人排斥キャンペーンや放火、迫害の対象となった。さまざまな移民の動きの出発点、通過点、目的地となっているエチオピアもまた、深刻な経済状況の中で、隣国エリトリアやスーダンからの難民流入への対応に苦慮している。
これらの北アフリカおよび東アフリカでの事例は、人の移動の自由のプラスの効果を享受するためには、まだ多くのことを成し遂げなければならないことを示している。例えば、これまで依然として低水準に留まっているアフリカ域内の貿易(アフリカ全体の貿易のわずか 15% を占めるに留まっている[vi])を促進するためには、課題に対する調和のとれた、受け入れ可能な解決策を見出す必要がある。
革新的な民間セクターによる経済の回復力(レジリエンス)
「アフリカの問題はアフリカ自身が解決する(African solutions for African problems)」―このスローガンは、エチオピアの首都アディスアベバの国際空港に到着すると最初に目にする言葉である。他のアフリカの大都市でも、同様のフレーズは落書きとして刻まれていたり、国際会議の場で各国の要人たちからマントラのように唱えられている。
アフリカ連合(AU)は、大陸が直面する課題により構造的に取り組むためにも、G20への加盟などを通じて、国際社会における発言力の強化を目指している。アフリカ社会のレジリエンス(回復力)を強化するための自由貿易圏の創設は、アフリカ連合(AU)が(財政面を含む)外部ドナーへの依存から脱却するための重要な一歩でもある[vii]。具体的な成果を上げるアフリカ連合は加盟国にとっても魅力が増し、その結果、加盟国による分担金の期日内納付の可能性が高まる。これはアフリカ連合(AU)の財政的自立を促進することにもつながる。
民間セクターの強化、そして企業を縛り付ける国家の強い統制からの脱却は、新たなダイナミズムと、自らの将来に対する「オーナーシップ(主体性)」を生み出す。グローバルなネットワークを持ち、シンガポール、ドバイ、ニューヨークなどの大都市での経験を母国に持ち帰る新しいエリート層が育ちつつある。ネットワーク、アイデア、そして必要なスタートアップ資金を備えた第二世代、第三世代が、両親や祖父母の出身国への投資を行っている。こうした動きはすでに見られることだが、今後はさらに積極的に後押ししていく必要がある[viii]。アフリカ連合にディアスポラ関連部署が設置されていること自体、これらのアクターが大陸の将来にとっていかに重要であるかを示している。
送金以外の形で、出身国の将来に貢献したいという関心はすでに存在しており、現在求められているのは、硬直化した行政手続きを打破することであり、これは国家レベルおよび大陸レベルの双方で取り組むべき、依然として困難な課題である。その一方で、すでに効果を上げ始めている小さな前進もある。たとえば、多くのアフリカ諸国で導入されている電子ビザは、企業家がアフリカ域内を移動することを容易にしている。世界経済フォーラムは2023年の報告書において、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の実施を主に推進するのは、アフリカ系の若い起業家たちになるだろうと予測している[ix]。さらに、大陸では2010年以降、付加価値の創出と経済多角化の前提条件である工業化の割合が再び上昇している[x]。
地理的・文化的・言語的な困難は多いものの、アフリカ連合や民間部門主導で、民間経済アクター同士の結びつきを強化するための多様な取り組みが進められている。たとえば「アフリカ域内貿易促進のための展示会(IATF: Intra-African Trade Fair)」は、歴史的に形成されてきた国境を乗り越える機会を提供している[xi]。経験交流がより容易になり、官僚的な障壁を低くして国境を越えた貿易が可能になることは、現時点ではまだ夢物語のように見えるかもしれない。しかし、それが実現すれば、繁栄をもたらし、経済的・政治的・環境的ショックに迅速に対応できる環境を整えることにもつながるだろう。
アルベルト・ムチャンガ委員の指揮のもと、アフリカ連合は、大陸レベルで民間セクターを関与させるために、すでにいくつかの協議やいわゆるハイランクパネルを立ち上げている。ナイロビやハボローネでの協議では、民間セクターが、特に大企業などを中心に、制度的枠組みさえ整えば、事業拡大の機会があると認識していることが明らかになった。
相互依存関係が平和へのインセンティブをもたらす
ロシアによるウクライナ侵攻以降、社会民主主義的な原則である「貿易による変化(Wandel durch Handel)」は厳しい試練にさらされている。しかしアフリカ大陸の専門家の間では、国家間の紛争はより緊密な貿易関係によって抑制され、新たな暴力の発生を低減できるという点で見解の一致が見られる。そのため近年では、民間セクターを平和構築プロセスに組み込むと同時に、紛争地域をできるだけ早く貿易ネットワークへ再統合しようとする取り組みが増えている。
貿易ルートを平和的に利用するという共通の利害は、国家内および国家間の武力紛争のリスクを低下させるだろう。地域統合が進めば、紛争勃発時に当事者が被るコストは大幅に増大するため、その結果として平和と安全がより魅力的な選択肢となる―アフリカ連合平和基金(African Union Peace Fund)事務局長のダグマウィト・モゲス(Dagmawit Moges)はこのように指摘している[xii]。近年、クーデターや内戦、危機によって注目を集めてきたアフリカ大陸において、域内通商政策を軸とする地域統合の強化は、相互依存関係を深めるための歓迎すべき選択肢である。
貿易を「アジェンダ2063」の中核要素、ひいては大陸発展の鍵と位置づけようとするアフリカ連合の姿勢は、各機関の戦略文書や論考からも明らかである。アフリカ連合加盟各国およびその関連機関に今求められているのは、安全保障を優先するのか、貿易を優先するのか、相互に揺れ動いてきた歴史の中で、これまで踏みなれた道を離れて、独自の路線を切り開き、安全保障の強化が貿易関係にプラスの影響を与え、貿易関係が加盟各国におけるより持続可能な安全保障構造につながるような戦略を見出すことである。
地域統合からアフリカ全体としてのアイデンティティ形成へ
アフリカ連合は、複合的な問題を抱える中で、一つの組織として認識されるという目標をまだ達成できていない。西アフリカのECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)や東アフリカのEACといった一部の地域経済共同体(REC)は、小規模ながらも成功例を示してきたが、アフリカ統合自体の全体像は現時点ではいまだ満足のいくものとは言い難い。人の移動はごく少数の結節点に集中しており、とりわけ、国家のアイデンティティを強化する戦略への回帰が、その潜在能力を最大限に発揮することを妨げている。ここ数年でより一層深刻化した南北の分断は顕著である。しかし、強化された地域経済共同体(REC)は、拡大した社会的・経済的分断を回避する手段となるだろう。現時点ではまだその能力を超える課題に直面していることが多いが、アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)が完全に実施される頃には、その重要性は高まり、制度的にも一層強化されているであろう[xiii]。
これまで、AfCFTAの実施が遅れた要因は何だったのか?
アフリカ連合(AU)にとって、アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)の実施は依然として最優先課題のひとつであるにもかかわらず、その実施段階は比較的緩やかな立ち上がりとなった。実施を困難にしている世界的な課題に加え、構造的な問題も生じており、これまでのところこれらが成功の見通しを曇らせている。
パンデミックの余波
新型コロナウイルスのパンデミックは、アフリカ大陸にも深刻な影響を与えた。アナリストのアナベル・ゴンザレス氏は、このパンデミックによってアフリカ域内の経済格差がさらに拡大したと指摘している[xiv]。AfCFTAの実施は当初2020年夏に予定されていた。すでにこれはきわめて意欲的なスケジュールであったが、パンデミックにより延期を余儀なくされた。加えて、ドナーの関心や(すでに減額され)わずかばかりの資金も、危機の対応やグローバルヘルスといった他の分野へとその重点を移した。国境、港湾、空港が閉鎖されたことで、もともと脆弱であったアフリカ諸国間の貿易はさらに大きく制限された。
競争力の問題
自由で開かれた競争には、多くの企業が存在し、競争に刺激されながら市場に多様な製品やサービスを供給し、競争力を維持するために継続的な改革を行うことが不可欠である。しかし、アフリカ大陸の多くの国々では、実質的な競争がほとんど存在しないという問題がある。国営企業が特定の産業全体を支配しているケースが多く、民間企業が市場で成功を収めることは極めて困難である。国営企業の多くは「大きすぎて潰せない」存在である上に、長年赤字を抱え、国家予算にとって重い負担となっている。南アフリカ航空のような国家的象徴が外国投資家に売却され、国家アイデンティティの一部が失われることへの懸念から、政策決定者は必要な方向転換を避ける傾向にある。一方で、ナイジェリアなどの国々で起こった最初の民営化の波は、無条件の自由化が逆効果となり、国家の競争力を弱める可能性があることも示している[xv]。このため、アフリカ連合(AU)およびその加盟各国は、市場開放と民間セクターの強化を進めつつも、バランスを保つための現実的な中道的アプローチを見出す必要がある。
アフリカ大陸 – 地理的、物流的、インフラ技術的なジレンマ
面積3,000万平方キロメートル、54か国を網羅する自由貿易協定の実施は、言うまでもなく簡単な事業ではない。アフリカ大陸には、海へのアクセスがない内陸国が合計15か国も存在する。サヘル地域の一部の国々では、最寄りの港まで2,000キロ以上も離れているため、貿易の大部分は陸路または空路によって行わなければならない。さらに、大陸を流れる大河川は内陸輸送にはほとんど適しておらず、砂漠や密林といった自然条件も事態を悪化させる。
域内インフラの脆弱さは障壁としては軽微なものとみなされることもあるが[xvi]、決して無視できるものではない。その象徴的な例が、ソマリアのベルベラ市における野心的な港湾プロジェクトである。このプロジェクトが成功すれば、アフリカで最も人口の多い内陸国であるエチオピアにとって、ジブチ港に代わる選択肢を持てるようになる。アラブ首長国連邦の資金提供を受け、同国の企業グループ DP ワールド が運営する同港湾およびソマリア側からエチオピア国境までの道路はかなり前に完成しているが、エチオピア側の道路建設は、国内政治の問題などにより、いまだ実施されていない。
脆弱なインフラ、地理的制約、高関税、そして国境における汚職は、物流コストを押し上げている。東アフリカから西アフリカへ向かう製品は、現在もアラビア湾岸の大規模港で積み替えられ、スエズ運河と地中海を経由するか、喜望峰を迂回して輸送されている。内陸国への輸送は非常に手間がかかるため、物流企業はそもそもサービス提供をしていないか、あるいはコストが非常に高いため、ほとんど採算性がない貿易体系となっている。『エコノミスト』誌によると、貿易業者が物流会社を見つけられないことが多い一方で、物流業者は稼働率が低いと不満を述べているという逆説的状況が存在する[xvii]。その原因は貿易量の不均衡にあり、アフリカ域外からの輸入が過剰である一方、港湾都市向けの輸出がほとんどないため、物流市場の収益性は低いままなのである。
クーデターと内戦の狭間で苦戦する自由貿易
2010~2011年に北アフリカで始まった「アラブの春」の失敗、サヘルおよび西アフリカにおけるボコ・ハラムやいわゆるイスラム国(IS)の台頭、そして多くのアフリカ諸国における慢性的な政治・経済の不安定さを経て、本来であれば2020年代は大陸の転換点となり、数十年にわたる成長の時代が始まるはずであった。しかし実際には、この新しい10年間は、紛争やクーデターがアフリカ大陸、そしてアフリカ連合をずっと悩ませてきた。
2020年以降、アフリカでは15件以上のクーデター未遂事件が発生している。加えて、域内および国家間の紛争が、効果的な大陸内貿易を大きく妨げている。特に、北アフリカとサハラ以南のアフリカを結ぶサヘル地域の問題、スーダン内戦、アフリカの角地域における緊張は、AfCFTAの国家実施戦略を脅かし、あるいは貿易ルートを遮断している。そのため、国連アフリカ経済委員会(UNECA)の職員[xviii]やナイジェリア人教授アデケイエ・アデバジョ氏(Adekeye Adebajo[xix])などの専門家は警鐘を鳴らしており、安全保障上の危機、頻発するクーデター、国家間紛争によって、AfCFTAの目標達成は現在、極めて深刻なリスクにさらされていると指摘している。
AfCFTAは欧州、そしてドイツに何をもたらすのか?
「アフリカの問題はアフリカ自身が解決する(African solutions for African problems)」という明確に提示されたこの挑戦を、我々は真剣に受け止めるべきである。アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)は、主にアフリカ大陸の発展に資する、アフリカ人によるアフリカのためのプロジェクトである。しかしながら、アフリカの自由貿易圏の構築が欧州、ひいてはドイツにとってもメリットしかないことは議論の余地がない。
近年、アフリカ側から欧州のカウンターパートやドナー国に対する批判が強まっている。その批判とは、開発政策が受益国の利益を十分に考慮せずに進められているというものである。一方、ドイツ国内でも同時に、開発政策はより戦略的に、そして自国(ドイツ)の利益に沿った形で実施されるべきではないかという議論が繰り広げられている。こうした状況の中、アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)は、双方の利益が必ずしも相反するものではないことを示す好例となり得る。開発政策、通商政策(貿易)、外交を結び付ける重要な枠組みになり得るのだ。
通商政策(貿易)がひとつに統一されることは、欧州企業にとってより信頼性の高い交渉基盤が形成されることを意味する。汎アフリカ市場が実現すれば、アフリカと欧州の中小企業間のより信頼性の高い貿易が可能になる。現在、欧州企業にとってアフリカ市場への参入は行政上の障壁が高すぎるため、ほとんど魅力がない。一方、アフリカの中小企業も、これまで欧州に進出することはほとんどなかった。多くの企業は依然として二国間協定に頼らざるを得ず、例えばコーヒー産業のように、欧州のサプライチェーン規制の影響を受けている。競争力を高める(アフリカ企業)および維持する(欧州企業)ためには、妥協点を見出さなければならないことは明らかである。欧州連合とアフリカ連合の経済統合が強化されれば、両者の政策決定者はこうした議論を避けては通れないであろう。
アフリカ大陸が経済的に繁栄すれば、予測されている人口動態の変化そのものを変えることはないかもしれないが、新たな機会が創出されるだろう。活発な労働市場と人の移動の自由により、アフリカ諸国間での正規の移住の可能性が広がり、大陸内および大陸外への不規則な移民移動を抑制することにもつながる。
いわゆる「前政治的な領域(pre-political area)」は、これまでアフリカ大陸ではほとんど存在していなかった。業界団体は、自らの政治的責任をほとんど認識しておらず、政治家と経済界の間での意見交換もごくまれにしか行われていない。自由貿易圏の創設や市場開放といった大規模プロジェクトを進める際、企業との間で十分な協議を行っていないことは、大きな問題になる。そのため、地域、大陸、そして国際的な課題に対する革新的な解決策を見出すために、活発な民間セクター、とりわけ「前政治的な領域(pre-political area)」の形成を促進すべきである。そうすることで、共通の立場を形成し、経済政策の課題においても「アフリカの声」を強化し、必要に応じて、新しい概念を世界の他の地域への刺激として活用することができる。
AfCFTAの実施にどのように関与できるのか、そしてすでに何が行われているのか?
自由貿易圏は常に多国間および国家レベルの双方から捉えられるべきであり、ドイツはその両面で支援を行うことができる。ただし、人員や財政面での負担の大部分はアフリカ連合(AU)加盟各国が担わなければならない。多国間レベルでは、アフリカ連合およびその諸機関を引き続き支援し、その行動能力を強化することが重要である。しかしこの場合、自ら(ドイツ)の利益という観点からも、将来に備えて、アフリカ連合と欧州連合の間の交渉チャネルを常に開いておくという欧州のアプローチを取るべきである。多国間機関[xx]全般、さらには世界貿易機関(WTO)のような貿易機関の分断化が進みつつある今日において、少なくとも通商政策の分野で大陸規模の統合を進めようとするアフリカ連合とその加盟国の意志は、支援すべき動きである。こうして欧州、とりわけドイツは長期的に重要な役割を果たし、自国の貿易を多様化するための新たなパートナーを見いだすことができる。
さらに、アフリカ大陸は世界的な体制間競争においても重要な役割を担っている。地政学・通商政策の観点から、アフリカは現在、自らの立ち位置を模索しており、多くの選択肢を持つ大陸である。欧州に加え、アラブ湾岸諸国、中国、ロシアが市場、戦略的パートナーシップ、影響力の拡大を求めている。安全保障政策の面では、欧州は当面の間、限定的な役割しか果たせないだろう。しかし通商政策の面では、ドイツは依然として多くの国々、さらにはアフリカ連合からも高い評価を得ている。また、AfCFTAは純粋にアフリカのプロジェクトであるとはいえ、欧州単一市場との間に多くの類似点があり、欧州およびドイツは自然なパートナーといえる。そのため、欧州の関与を強化することは、アフリカ連合という機関をより緊密に欧州へ結び付けることにもつながり、特にフランスとの二国間関係とは対照的に、アフリカ連合そのものが欧州連合のパートナーおよび友人としての立場をより強固なものにするべきである。
とりわけ大規模インフラ事業においては、ドイツも欧州連合も、またドイツ(欧州)企業もアフリカにおいて今後主導的役割を果たすことは難しいだろう。欧州企業は中東、トルコ、中国の価格と競争することは難しく、複雑な入札手続きは迅速な実施が求められるプロジェクトを停滞させる。そのため、アフリカ大陸ですでに支配的な役割を果たしているカウンターパートと早期にパートナーシップを結ぶことが賢明である。例えば、過去数年でアフリカ東海岸に緻密な港湾ネットワークを構築し、重要なインフラパートナーへと台頭したアラブ首長国連邦や、トルコ航空およびトルコ航空カーゴの充実した路線網、そして中欧の競合企業よりも価格性能比で市場に適合した提案を行うことで存在感を強めているトルコなどがその候補である。競合する相手や協力するパートナーの強みや仕組みをうまく利用するためには、巧みな通商外交が求められることは言うまでもない。
単一市場の構築には時間がかかることは明らかである。欧州単一市場に後から加盟した国や民間部門も、自らの経験をアフリカ連合加盟国と共有し、市場参入を支援するためのフォーラム(討論の場)を提供することができるし、そうすべきである。植民地支配の過去を持たない欧州連合加盟国は、このプロセスにおいてより積極的な役割を果たすことができ、「裏口からの新植民地主義」という非難も回避できるだろう。
二国間レベルでは、ドイツは各国のAfCFTA国内委員会に助言を行い、加盟国が関税を段階的に引き下げる準備を整える支援を行うことができる。ドイツ連邦共和国はすでにドイツ国際協力公社(GIZ)を通じてAfCFTAの制度的実施を集中的に支援しており、世界的に見ても最大のドナーである。そのため、シンクタンクや業界団体、さらには企業などといった関係者も、助言や討論の場の提供を通じてアフリカ側カウンターパートを支援すべきである。
ドイツの中小企業に対し、投資という形で積極的な支援を期待することは、現時点ではあまり現実的ではない。ドイツの民間部門は一般にリスク回避的とされており、これまでに述べた諸問題が解決されない限り、大規模投資は実現しにくいだろう。それでもなお、とりわけ中小企業は助言的な役割を果たし、場合によっては保護された枠組みの中で合弁事業を通じて、アフリカとドイツを結ぶ経済的な架け橋となることはできる。
今後への期待
アフリカ大陸自由貿易圏/自由貿易協定(AfCFTA)は、アフリカ連合(AU)の旗艦プロジェクトであり、今後もその地位を維持し、「アジェンダ2063」の成否を大きく左右する存在である。その重要性については、連合および各加盟国の政策決定者も十分に認識している。現在、このプロジェクトはまだ始まったばかりである。とりわけ新型コロナウイルスのパンデミックによって後退を余儀なくされたが、「ガイデッド・トレード・イニシアティブ(Guided Trade Initiative)」によって最初の成果を示すことができた。特定の国、特定の分野についてのみ関税を引き下げるというこの構想によって、アフリカ連合(AU)は、時に鈍重すぎると批判されることもあるが、一定の行動力があることを示してみせた。エチオピアのコンラート‧アデナウアー‧シュティフトゥングが最近発表した研究[xxi]によれば、このイニシアティブは、不安定なスタートを切ったものの、次第に成功へと歩を進めつつあるということである。当初、カメルーン、ガーナ、エジプト、モーリシャス、ケニア、ルワンダ、チュニジア、タンザニアの 8か国が、陶磁器、紅茶、コーヒー、ドライフルーツなど96品目に対する関税を引き下げたが、2024年末までには、計31か国がガイデッド・トレード・イニシアティブに参加すると見込まれている。
さらに、各国の国内委員会は、各国経済や企業が、自由市場、すなわちより厳しい競争環境への移行に向けての準備を支援すると同時に、新しい販路を開拓している。アクラの AfCFTA 事務局、アディスアベバのアフリカ連合(AU)委員会、およびグローバルドナーと協力し、将来の課題に適切に対応するための戦略の策定、進捗状況の分析、データの収集が行われている。
2021年に最初の措置が開始されたばかりであり、自由化への道のりはまだ長い。それでも、仲裁制度、原産地規則、そして45の関税引き下げ措置など、重要な事項はすでに合意に達している。2034年までに大半の規則が実施される予定であり、ブルッキングス研究所によれば、その頃になって初めて顕著な効果が見られるだろうということである[xxii]。
アフリカ連合(AU)加盟国すべてが参加する自由貿易圏の成功への道は、現時点では困難と思われる。数多くの紛争、いくつかの地域経済共同体(RECs)の機能不全、脆弱な地域統合、さらには自由貿易よりも重要視されがちな他の課題が、アフリカ大陸およびアフリカ連合に関する報道を支配している。しかし、ガイデッド・トレード・イニシアティブの成果、自由貿易圏の構築プロセスに関与しようとする加盟国の意志、そして多くのアフリカ諸国が孤立主義の障壁を打破する必要性を感じているという事実が、このプロジェクトを成功へと導く期待を抱かせる。そのため、秩序面でも通商面でも世界的成功となり得る本プロジェクトを、冷静さと忍耐をもって引き続き支援することが望ましいと言える。
本稿は、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(KAS)により2024年8月20日に発行された『Auslandsinformationen(海外情報)』2024年第2版『Was wird aus der Globalisierung(グローバリゼーションはどうなるのか)』の中で書かれたドイツ語の記事『Handel ohne Hürden? Der steinige Weg zu einem panafrikanischen Markt(障壁のない貿易?汎アフリカ市場実現への険しい道)』を日本語に翻訳したものである。
[i] Nwuke, Kasirim 2022: I confess, I am an AfCFTA sceptic(実は、私はAfCFTAに懐疑的である「仮訳」)、The Africa Report(アフリカ・レポート)2022年2月15日発行:https://ogy.de/xxam [2024年6月28日閲覧]
[ii] Bekele-Thomas, Nardos 2023: AfCFTA: Seizing opportunities for a prosperous Africa(アフリカ繁栄のための機会を掴む「仮訳」)、Africa Renewal(国連「アフリカリニューアル」)2023年5月4日発行:https://ogy.de/6415 [2024年6月28日閲覧]
[iii] International Trade Center(世界貿易センター)2021: New report: AfCFTA creates jobs, opportunities for African youth(最新報告:AfCFTAがアフリカの若者の雇用拡大に寄与「仮訳」)、2021年5月25日発表:https://ogy.de/myjy
[iv] Galal, Saifaddin 2024: Median age of the population of Africa from 2000 to 2030(2000年から2030年までのアフリカの人口中央値年齢「仮訳」)、Statista(スタティスタ)、2024年3月28日発表:https://ogy.de/eq1j [2024年6月28日閲覧]
[v] African Development Bank Group(アフリカ開発銀行グループ):Human De-velopment(人間開発「仮訳」):https://ogy.de/us3n [2024年6月28日閲覧]
[vi] United Nations Economic Commission for Africa (国連アフリカ経済委員会)2023:Free movement of people, a catalyst for trade(人の往来の自由化が貿易を加速する「仮訳」)2023年3月29日発表:https://ogy.de/ltlz [2024年6月28日閲覧]
[vii] Institute for Security Studies (南アフリカ国際問題研究所ISS)2023: Financial independence is key to stronger AU partnerships(財政的自立がアフリカ連合(AU)連携強化の行方を決定づける「仮訳」)、PSC Report(PSCレポートチーム)2023年2月13日発行:https://ogy.de/wdn6 [2024年6月28日閲覧]
[viii] Denekew, Sophia / Shaw, Antony 2018: Capacity building needed to implement AfCFTA(AfCFTA実施に向けた能力強化が必要「仮訳」)、2018年5月13日発行:https://ogy.de/7oyw [2024年6月28日閲覧]
[ix] Weltwirtschaftsforum(世界経済フォーラム)2023: AfCFTA: A New Era for Global Business and Investment in Africa(AfCFTA:アフリカにおけるグローバル・ビジネスと投資の新時代「仮訳」)、2023年1月号:https://ogy.de/d6u9 [28.06.2024閲覧]
[x] Dind, Hinh T. 2023: Industrialization in Africa: Issues and Policies(アフリカの工業化:課題と政策「仮訳」)、研究論文 2023年第5号、Policy Center for the New South(ポリシーセンター・フォー・ニューサウス/モロッコのシンクタンク)、2023年10月発行:https://ogy.de/dpct [2024年6月28日閲覧]
[xi] アフリカ連合(AU) 2023: The African Union: Shaping Africa’s Trade Future at Intra-African Trade Fair (IATF2023)(アフリカ連合:域内アフリカ貿易見本市(IATF2023)でアフリカの貿易の未来を形づくる「仮訳」):https://ogy.de/3sgp [28.06.2024閲覧]
[xii] アフリカ連合(AU) 2023: Linkages between AfCFTA and Peace Fund, a path to sustainable development(AfCFTAと平和基金の連携、持続可能な開発への道「仮訳」):Op-Ed by AU Director, Peace Fund Secretariat (AU 平和基金事務局長による寄稿)、2023年8月2日発表:https://ogy.de/fsev [2024年6月28日閲覧]
[xiii] Erasmus, Gerhard 2021: Making the AfCFTA and the RECs work(AfCFTAと地域経済共同体(RECs)を機能させる「仮訳」)、Trade Law Centre NPC (tralac)(トレードローセンター(南アのシンクタンク))2021年6月3日発表:https://ogy.de/1cj4 [2024年6月28日閲覧]
[xiv] Africa Trade Fund(アフリカ貿易基金)2020: AfCFTA: COVID-19 as a Catalyst for Accelerating Trade and Investments in Africa(AfCFTA:COVID-19危機がもたらすアフリカの域内貿易と投資「仮訳」)2020年11月24日発表: https://ogy.de/dzpz [2024年6月28日閲覧]
[xv] Usman, Zainab 2022: The Successful and Failed Policy Choices of Becoming Africa’s Largest Economy(アフリカ最大の経済大国となる過程における成功と失敗の政策選択「仮訳」)Africa Policy Research Private Institute(アフリカ政策研究民間研究所), 2022年7月28日発表:https://ogy.de/3ktg [2024年6月28日閲覧]
[xvi] Rieck Moncayo, Gunter 2022: Wirtschaftliche Entwicklung durch innerafrikanischen Freihandel, kurzum 125(アフリカ域内自由貿易による経済発展(kurzum第125号)「仮訳」)2022年10月14日発行、コンラート‧アデナウアー‧シュティフトゥング:https://ogy.de/p22n [2024年6月28日閲覧]
[xvii] The Economist (ザ・エコノミスト誌)2022: Why it costs so much to move goods around Africa(アフリカで物資を輸送するコストが高い理由「仮訳」)2022年3月26日発行:https://econ.st/4b6LgqC [2024年6月28日閲覧]
[xviii] 2024年4月29日、アディスアベバでの二国間会談。
[xix] 2024年4月25日、ヨハネスブルクでの二国間会談。
[xx] Jaldi, Abdessalam 2023: The Crisis of Multilateralism viewed from the Global South(グローバル・サウスから見た多国間主義の危機「仮訳」)研究論文 2023年第5号、Policy Center for the New South(ポリシーセンター・フォー・ニューサウス/モロッコのシンクタンク2023年4月発行:https://ogy.de/2sv7 [2024年6月28日閲覧]
[xxi] コンラート‧アデナウアー‧シュティフトゥング / ATPC / ECA 2024:Die Guided Trade Initiative – Zwischen Protektionismus und Potenzialen(ガイデッド・トレード・イニシアティブ――保護主義と潜在力の間で「仮訳」)2024年5月28日発行:https://ogy.de/m7mq [2024年8月12日閲覧]
[xxii] Mold, Andrew / Mangeni, Francis 2024: How to catalyze AfCFTA implementation in 2024(2024年、AfCFTAの実施をどう加速するか「仮訳」), Foresight Africa 2024, Chapter 4, Trade and regional integration, Brookings(『Foresight Africa 2024』第4章「貿易と地域統合」ブルッキングス研究所)2024年1月23日発行、94頁以降:https://ogy.de/ i028 [2024年6月28日閲覧]